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質量が大きく異なるブラックホールの衝突を初観測

質量の異なる2個のブラックホールの衝突のシミュレーション画像。 Credit: FISCHER, H. PFEIFFER, A. BUONANNO (MAX PLANCK INST. GRAVITATIONAL PHYSICS)/SXS COLLABORATION

質量が大きく異なる2つのブラックホールの衝突と合体による重力波が、重力波検出器で初めて観測され、2020年4月の米国物理学会(American Physical Society;APS)で報告された。重力波の分析の結果、ブラックホールの自転や、重力波の高い周波数成分が検出された。

この重力波は、米国の2カ所にあるLIGO(レーザー干渉計重力波天文台)と、イタリア・ピサのVirgo重力波検出器が2019年4月12日に観測した。観測結果は、シカゴ大学(米国イリノイ州)の天体物理学者Maya Fishbachらが、APSのオンライン学術大会で4月18日に報告した(今号「米国物理学会の初のバーチャル学術大会に過去最多の参加者」参照)。また、論文はプレプリントサーバーarXivに投稿された(arxiv.org/abs/2004.08342)。

LIGOとVirgoの重力波観測ネットワークがこれまでに重力波を観測し、報告したブラックホールの合体は、だいたい同程度の質量のブラックホール同士の合体だけだった。今回のイベントでは、1つのブラックホールは約8太陽質量で、もう1つは約30太陽質量だった。

波形の分析から、重い方のブラックホールが合体前に自転していたことと、自転の程度が分かった。自転が検出された例はこれまでに少数あったが、2つのブラックホールを合わせた自転の程度しか分からなかった。今回、質量差があるために、1つのブラックホールの自転の程度が分かった。自転の検出は、ブラックホールがどのようにして誕生し、どうして連星ブラックホールになったかの解明につながる。

また、質量差があるために、重力波の基本的な周波数(ブラックホールの軌道回転の周波数の2倍)の他に、その1.5倍の周波数の成分も検出できた。この結果、連星ブラックホールの各パラメーターの推定精度を上げることができた。さらに、比較的質量が小さかったため、重力波信号の長さが長く、一般相対性理論のより精密な検証ができた。同理論との矛盾は見いだされなかった。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200704

原文

Black hole collision, funding disruption and Mars rocks
  • Nature (2020-04-22) | DOI: 10.1038/d41586-020-01124-y
  • Davide Castelvecchi