脳内の寄生虫
岩肌で日の光を浴びている雌のイワカナヘビ。 Credit: MANTONATURE/ISTOCK / GETTY IMAGES PLUS/GETTY
Nathalie Feinerは、フランスのピレネー山地で採集したトカゲの胚の脳の中で小さな線虫がうごめいているのを見つけたとき、ただの偶然だと思った。彼女はある研究のために数百匹のイワカナヘビの胚を解剖していたのだが、この侵入者と出くわしたのは初めてだった。だがその後、孵化前のこの爬虫類の脳に線虫が見つかる例が増えていった。
当時英国オックスフォード大学にいたFeinerは興味を覚え、同僚と共にこの胚の親を調べた。すると、線虫がいた胚の母親の卵巣だけに線虫が見つかった。この寄生虫が、それまで不可能だと考えられていた仕方で母から仔に移動したことを示唆している。
線虫などの寄生虫は宿主の中では増殖せず、哺乳類の胎盤や母乳を介して母から仔に伝わることが多い。だが鳥類や爬虫類の場合、発生中の胚の周囲に形成される卵殻がそうした侵入を阻む壁になっていると考えられていた。爬虫類の卵に寄生虫が感染した例が観察されたことはなかったとFeinerは言う。「私たちはこれらの線虫が進化させた全く新しいライフスタイルを偶然に発見したと思われます」。
卵殻が防護壁になるとは限らないかも
Feinerらは2019年12月にAmerican Naturalist に受理された論文で、雌のイワカナヘビ85匹が6カ所で産んだ720個の卵を調べ、胚に線虫が見られるのがピレネー山地で採集した最初の個体群のみだったことを報告した。感染した雌から寄生虫が胚に移行した割合は50~76.9%だった。
DNA解析の結果、これらの線虫はこのトカゲの腸内で見つかる線虫に似ていることが分かった(ただしサイズはずっと小さい)。このためFeinerらは、この線虫は腸内にいる種から進化したのだろうという。
従来の研究は、主に鳥とカメの寄生虫を調べていたので卵への感染の可能性を見落としていたのだろうとFeinerは言う。鳥やカメでは受精後すぐに卵殻が形成され、この段階の胚はわずかな細胞の塊にすぎないので、小さ過ぎて宿主にならない。だがトカゲやヘビで卵殻が形成されるのは胚がもっと大きくなってからなので、寄生虫が感染してもおかしくない。生物多様性・遺伝資源研究センター(ポルトガル)のJames Harris(今回の研究には加わっていない)は、Feinerらの仮説が正しい場合、この形態の感染はもっと広く見られる可能性があるという。
(翻訳協力:粟木瑞穂)
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200620a
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