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極端な北極温暖化の原因はオゾン層破壊ガスか

北極の気候変動によって海氷域が縮小している。 Credit: Arterra/Universal Images Group via Getty Images

スクリプス海洋研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の気候科学者Mark Englandらが2020年1月20日にNature Climate Change で発表した論文1によると、1955~2005年の間に北極で観測された気候変動影響の半分は、オゾン層破壊ガスに起因していた可能性があるという。

北極では、北極を除く全球平均の2倍以上の速さで温暖化が進行しており、驚異的なペースで海氷が減少している。この現象は、北極温暖化増幅として知られるが、長年にわたって科学者たちを当惑させてきた。今回の研究結果は、気候変動の影響が北極域では極端な形で表れる理由を説明するのに役立つ可能性がある。

フロン類のクロロフルオロカーボン(CFC)をはじめとするオゾン層破壊物質は、二酸化炭素よりも数千倍も高い効率で気温を上昇させる。しかし、オゾン層破壊物質に関する大抵の研究は、オゾン層への影響に重点を置いている。南極オゾンホールの原因がオゾン層破壊物質であるため、南半球では特にその傾向が強いのだとEnglandは言う。「今回の論文は、多くの議論をよりグローバルな規模で捉え直したものだと考えています」。

Englandの研究チームは、1950年代に始まったCFCの大量排出を考慮した場合と考慮しない場合の気候シミュレーションを比較した。CFCを考慮しない場合、北極の温度上昇の平均が0.82℃となることが示された。これに対しCFCの存在を考慮した場合、温度上昇値は1.59℃に跳ね上がった。海氷被覆率についても、こうした2種類のモデルシミュレーション間で、北極の温度上昇と同様に劇的な変化が見られた。CFC濃度を固定してオゾン層の厚さを変化させたモデルのシミュレーションを行うと、温度上昇は、CFCがオゾン層で引き起こした変化によるものではなく、直接CFCに起因するものという結論に至った。

「Englandのチームは1つのモデルで丁寧に研究を行っており、これは大変意味のあることだと思います」と米国立大気研究センター(コロラド州ボールダー)の気候科学者Marika Hollandは言う。大気中のオゾン層破壊物質による温暖化効果は、十分裏付けられた現象だと彼女は言う。しかし気候モデルは複雑であるため、北極に対する影響の正確な規模については断言できないとも指摘する。

NASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の大気科学者Susan Strahanは、「この研究は興味深く、刺激的です」と言うが、その結論にはまだ納得できていない。モデル化された増幅を物理的にはっきりと説明できていたら、もっと強い主張も可能だったでしょう、と彼女は続ける。

今回、北極温暖化へのCFCの寄与度の推定値が示されたわけだが、その信頼性を高めるには、今回の結果を複数の気候モデルで再現することが不可欠だと、Strahanは言う。ワシントン大学(米国シアトル)の気候科学者Cecilia Bitzも同意見だ。

オゾン層破壊物質の段階的廃止を求めたモントリオール議定書が1989年に発効した後、2000年を境に全球のCFC濃度は減少している(2019年7月号「中国にフロンの違法排出源」参照)。他にも多くの要因が北極温暖化増幅に寄与しているとみられるが、今回の結果は、オゾン層破壊物質が大気中から減り続けるにつれて北極の温暖化と海氷融解が将来軽減される可能性があることを示唆しているとBitzは言う。「大変重要な論文です。楽観の兆しを示していますから」。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200302

原文

Ozone-depleting gases might have driven extreme Arctic warming
  • Nature (2020-01-20) | DOI: 10.1038/d41586-020-00108-2
  • Giuliana Viglione

参考文献

  1. Polvani, L. M., Previdi, M., England, M. R., Chiodo, G. & Smith, K. L. Nature Clim. Change https://doi.org/10.1038/s41558-019-0677-4 (2020).