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意外な捕食者たち

ゲンゴロウ類の一種Dytiscus marginalis。 Credit: ROBERT TREVIS-SMITH/MOMENT/GETTY

オルフス大学(デンマーク)の生態学者Jose Valdezらは、オーストラリアのニューカッスルに新設した生物保護地に1万匹のオタマジャクシを放した。腹を減らしたヘビや鳥、哺乳動物から守るために金網のフェンスで囲ったのだが、それらよりもずっと小さな捕食生物のことを考えていなかった。ゲンゴロウ類だ。この昆虫による猛攻撃がすぐに見られるようになり、3年後にはほんの数匹のカエルしか残らなかった。Valdezらは最近発表した2つの論文で、ゲンゴロウの破壊的な捕食戦術とそれが生物保護に及ぼす影響を報告した。

捕食者は被食者よりも大きいのが普通で、両生類などの脊椎動物と昆虫の場合は両生類の方が捕食する側となる。逆の例もあるが(トカゲを食べるカマキリなど)、まれだと考えられている。しかしValdezは昆虫の捕食行動が過小評価されてきたのではないかとみる。「私たちの2つの研究は、小さな昆虫が大きな影響を及ぼしている可能性を示しています。特に個体数の少ない絶滅危惧種に及ぼす影響が大きい可能性があります」と言う。

ゲンゴロウ恐るべし

群れをなして狩りをする昆虫を見ることはほとんどない。だがValdezは、ある池を夜間に観察していた際に、12匹ほどのゲンゴロウが1匹のオタマジャクシを取り囲んであっという間にバラバラにするのを目撃した。「ゲンゴロウが自分よりも大きなオタマジャクシを残忍に素早く解体するのを見てショックでした」とValdez。

研究チームはまた、一部のゲンゴロウが卵をカエルの卵塊の中に産み付けていることに気付いた。卵からかえったゲンゴロウの幼虫が生まれたてのオタマジャクシを食べられるようにタイミングをはかっているようだった。ゲンゴロウの幼虫は1時間に3匹のオタマジャクシを殺し、近くに別のオタマジャクシがいたときには食べかけを捨てて襲うことが多かった。「こうした行動が記録されたのは初めてです」とValdezは言う。この結果は、2019年12月にEntomological Science に、2019年8月にAustralian Journal of Zoology に掲載された。

明らかになってきた捕食行動

昆虫は小さいので、その捕食行動は見逃されやすい。また夜や水中など、観察しづらい環境で獲物を攻撃することが多い。それでも、次第に明らかになりつつある。近年の研究で、カマキリが小さな鳥をしばしば食べていることや、日本の水田でタガメがカメやカエル、ヘビなどの脊椎動物を捕食している例が報告されている。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200313a