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地磁気の発生は予想以上に早かった?

地磁気(図中の色線)は地球が大気をつなぎ留めるのに役立っている。 Credit: ANDRZEJ WOJCICKI/SPL/Getty

グリーンランドの太古の岩石に含まれる磁性鉱物から、少なくとも37億年前に地磁気が発生していたことが示唆された。この発見で、地磁気の誕生時期が通説より2億年さかのぼる。つまり、生命が初めて地球上に現れた頃には、地磁気が発生していたことになる。

2019年12月9日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された米国地球物理学連合の秋季大会でこの研究成果を発表したマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の古地磁気学者Claire Nicholsは、「興奮が伝わるとよいのですが」と話した。

地球は、地磁気を持つようになったことで生命にとってより快適な環境になったと考えられている。地球の核内部で起こる液体鉄の流動によって発生する地磁気は、太陽が放出する高エネルギー粒子から地球を保護している。また、地球表面に大気をつなぎとめ、液体の水を保持するのにも役立っている。

数十億年前の、つまり地磁気が発生した頃の証拠をとどめている岩石が、現在まで残っていることはかなり稀である。今回の報告は、数十億年前の地球の様子を垣間見せてくれるものだ。

稀な岩石

Nicholsは、2018年と2019年の2度、夏期の西グリーンランドへの遠征を率いた。首都ヌークの北に位置するイスア地域で太古の岩石を採集するためだ。イスアは、初期生命の手掛かりを求め、長年にわたり調査が行われている地域である。37億年前の複合生物の化石を含んでいるかなど、イスアの岩石は激しい論争をもたらしている。

大抵の科学者は、イスア地域の岩石は、地質学的な力によって過去数十億年にわたって非常に高温・高圧の環境にあったため、磁性をほとんど失っていると考えていた。だがNicholsのチームは、イスアの最北部に赴き、高温・高圧の影響が最も小さかった岩石を 調べた。

今回そうした岩石中の鉄鉱物から、鉱物形成時の地磁気の方向に関する情報が得られた。岩石が37億年前のものであることから、磁気信号も37億年前のものであるはずだとNicholsは言う。Nicholsのチームは、この磁気信号が、後から岩石に熱と圧力が加わったことで付与された弱い磁性ではないことを確かめるべく、さまざまな試験を行った。

カリフォルニア大学バークレー校(米国)の地球科学者Nicholas Swanson-Hysellは、Nicholsの講演を聴いて「この発見にとても興奮しています」と話す。彼は講演後Nicholsの所へ赴き、今回の発見の検証方法について意見を出し合った。イスアの岩石の地質学的歴史をさらに明らかにするためには、かつてグリーンランドとつながっていた北米北東部の岩石を調べるとよいかもしれない、というアイデアを伝えたそうだ。

一方、ロチェスター大学(米国ニューヨーク州)の古地磁気学者John Tardunoは、Nicholsの主張にやや懐疑的である。「本当であってほしいのですが、もう少し様子を見たいと思います」と彼は言う。

Tardunoらは2015年に、オーストラリアで見つかったジルコン結晶(ジルコニウムとケイ素でできたケイ酸塩鉱物)のかけらの内部に40億年以上前の地磁気の痕跡を見いだしたことを報告した。しかし最近、別の科学者らが、ジルコン内部の磁性鉱物では正確な年代決定ができないとして、この論文に異を唱えた(F. Tang et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 116, 407–412; 2019)。

オーストラリアのジルコンを除くと、およそ35億年前の南アフリカの岩石内部で見つかったものが最古地磁気の証拠として知られている。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200307

原文

Greenland rocks suggest Earth’s magnetic field is older than we thought
  • Nature (2019-12-10) | DOI: 10.1038/d41586-019-03807-7
  • Alexandra Witze