睡眠中にひらめき誘導
睡眠中に音を使って問題の記憶の活性化すると、解決法を編み出すことができるかもしれない。 Credit: LESLEY MAGNO/MOMENT/GETTY IMAGES PLUS/GETT
問題が解けずに行き詰まったら、とにかく意識的に考えるのをやめるのが一番良い場合がある。過去の研究では、休憩や短時間の昼寝は、脳が解決法を編み出す助けになる場合があることが示されている。いわゆるインキュベーション(孵化)効果だ。最新の研究は、睡眠中に音の合図を使って問題に意識を向けることによって、この効果を拡張した。
睡眠中にヒトの脳の一部はいくつかの記憶を再生し、それを強化し、変換している。10年ほど前には、特定の記憶をさらに強化することを狙って、標的記憶再活性化(TMR)という技法が開発された。この技法では、ある音を特定の記憶と関連付けておき、睡眠中にその音を再生すると、その記憶が再活性化するわけだ。今回、TMRを使って睡眠中にパズル問題に関する記憶を思い出させることが問題解決に役立つかどうかを調べた研究の結果が、Psychological Science に報告された。
音の再生で問題を再生
約60人の被験者が参加し、就寝前と一晩寝た後に研究室を訪ねてテストを受けた。まず被験者は空間的パズルと言語的パズル、概念的パズルに挑戦し、その際に問題ごとに特徴的なメロディーを背景に繰り返し流した。被験者が取り組んだものの解けない問題が6例たまるまで、これを続けた。被験者は帰宅後、徐波睡眠(記憶の固定に重要とされる最も深い眠り)を検知する電極と、未解決の6題のうち3題に割り当てられた音を再生する装置を装着して一晩眠った。翌日、被験者は研究室に戻り、未解決の6つの問題に取り組んだ(翌晩は別のセットの問題を使ってこの実験を繰り返した)。全体で、被験者は音の刺激を伴った問題の32%を解き、音刺激のない問題では21%にとどまった。50%を超える正答率アップだ。
カーディフ大学(英国)の心理学者Penny Lewisはこの研究について、「多くの複雑な処理を要する非常に複雑な課題に果敢に挑み、驚くべきことに、全ての課題について実に強い効果を見いだしました」と評する。「非常に素晴らしい成果です。今後はこの現象を理解する必要があります。まず実験を再現し、次に実際に影響を受けている脳の処理過程を解明することです」。
今回の研究は、人間が睡眠中に記憶を再構築していることを示す新たな証拠を提供するだけでなく、実用的な意味もありそうだ。「未来的な話ですが、TMRを使って睡眠中に問題に取り組めるようになるかもしれません」と、今回の論文の主執筆者で研究当時はノースウェスタン大学(米国)の大学院生だったKristin Sandersは言う。睡眠モニター技術はどんどん利用しやすくなっているし、装置がなくても、寝る前に重要な問題に意識を集中しておくことで効果を上げられるかもしれない。
(翻訳協力:粟木瑞穂)
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200221a
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