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助成先の決定に抽選を取り入れ始めた助成機関

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200216

原文:Nature (2019-11-20) | doi: 10.1038/d41586-019-03572-7 | Science funders gamble on grant lotteries

David Adam

助成金を配分する課題を選ぶに当たり順位を決めねばならないが、申請の大部分が申請基準を満たし、かつ甲乙つけがたい研究だ。それに、社会に変革をもたらす研究を予想するのは極めて難しい。そうした中、研究資金を無作為に配分する助成機関が増えている。

助成金採択課題を選抜する過程に抽選を取り入れる助成機関が増えている。 | 拡大する

MARTYNASFOTO/GETTY

アルベルト・アインシュタインが「神はサイコロを振らない」と言ったのは有名だが、ニュージーランド保健研究会議(HRC;オークランド)はサイコロを振る。助成金の一部を、無作為選抜で採択した課題に授与しているのだ。近年、こうした選抜方式をとる助成機関が増えている。例えば、ビクトリア大学ウェリントン校(ニュージーランド)の生物学者David Ackerleyは、細胞を除去する新しい手法の開発資金として2019年に15万ニュージーランドドル(約1100万円)を獲得した。HRCが毎年実施している抽選で、彼に割り当てられた番号が選ばれたからだ。

HRCが抽選を始めたのは2015年のことだった。その研究投資部門のシニアマネジャーであるLucy Pomeroyは、「私たちは、伝統的な選考プロセスは適切ではないと思っていました」と言う。彼女によると、当時HRCは「トランスフォーマティブな研究」(変革をもたらす発見や技術につながり得る研究)に出資するための新しいタイプの助成金を設けようとしていたため、フレッシュな着想を促すために、新しい選抜方式を試したかったのだという。

伝統主義者たちは警戒している。研究助成に無作為性を取り入れようとする勢力は、破竹の勢いで進んでいるとはいえないものの、次の手を着々と画策している。2019年11月19日にはチューリヒ大学(スイス)で会合を開き、このやり方を支持する人々が、「運は、科学システムの中でより大きな役割を担うべきだ」と主張した。

彼らが視野に入れているのは助成金の申請だけではない。抽選方式は、出版する論文の選択や、大学職員の採用にさえ利用できる、というのが彼らの主張だ。

運に任せる

研究ガバナンスの専門家であるチューリヒ大学の経済学者Margit Osterlohは、「採択課題の決定に無作為選択を取り入れることで、主流派でないアイデアに対して寛容になることができます」と言う。彼女は、学者の間にこのアイデアを広めるために今回の会合を組織した。Osterlohは、既存の選択プロセスは効率が悪いと指摘する。科学者は長文の申請書を準備するが、その多くは助成金を獲得できない。一方の評価委員会も、ほとんどの時間を中レベルのアイデアのランク付けに費やしている。

Osterlohによると、レベルの低い申請とレベルの高い申請のランク付けは容易だという。「けれどもほとんどの申請が中レベルです。ここに入るものが非常に多いのです」。重要なのは、標準的な評価法が、政策立案者や出版社や大学職員が考えているほどうまくは機能していないことだと彼女は言う。「査読者も、あらゆる種類の評価機関も、本当に良い評価基準は持っていないのです」。

2019年にはスイス国立科学財団(SNSF;ベルン)が、研究資金の配分に無作為選択を実験的に導入した。SNSFは評価委員会に対して、ポスドクフェローシップ採用者の決定を補助するためにくじ引きを行うように指示した。SNSFは現在、この制度の評価を行っていて、理事長のMatthias Eggerは、チューリヒで開かれた会合でこの試みについて講演している。一部の助成金について抽選で採択課題を決めているプログラムは他にもある。例えば、ニュージーランド政府が出資するナショナル・サイエンス・チャレンジのScience for Technological Innovation(SfTI)は、2015年に無作為選択を導入している。また、ドイツ最大の民間助成機関であるフォルクスワーゲン財団(ハノーファー)も、2017年から「Experiment!」助成金の一部の配分を抽選で決定している。

「実際にくじ引きをしました」

選抜プロセスは、完全に無作為というわけではない。典型的には、助成機関はまず、最低限の基準を満たしている申請を選び、これらの研究課題に番号を割り当ててコンピューターで無作為に選択して、助成金を配分している。

マッセイ大学(ニュージーランド・パーマストンノース)のプロセス工学者で、SfTIの出資を監督するチームのメンバーであるDon Clelandは、「このやり方は多くの罪悪感を取り除いてくれます」と言う。

例えば、20のプロジェクトに配分する資金を与えられた評価委員会は、どの申請を20位とし、どの申請を21位とするかで悩む必要がなくなる。どちらの申請も出資を受けるのにふさわしいと委員たちが同意したら、くじ引きをすればよいのだ。「実際にくじ引きをしました」とClelandは言う。

助成機関は申請者にどの段階まで進むことができたかを伝えるが、その反応は肯定的だったと彼は言う。「くじ引きで外れた人々は、あまり落胆していないようでした。自分たちの申請が出資を受けるのにふさわしいと判断されたことを知り、単にくじ運がなかったのだと思えたからです」。

このやり方は理論的にも裏付けられている。数人の研究者がさまざまな選抜法を分析した結果、無作為性を取り入れたシステムの方が現行のシステムよりも優れていることが示唆されたのだ(F. C. Fang & A. Casadevall mBio 7, e00422-16; 2016)。例えば、研究資金の配分には常にバイアスがかかっていることが研究によって示されているが、こうしたバイアスを減らし、課題採択者の多様性を改善することができるという。

抽選への参加基準は微調整できる。例えば、エスニック・マイノリティーの科学者や、資金力が豊富な機関からの支援を受けていない科学者には、加重をつけることができる。資金力が豊富な機関に所属する研究者や、特権的な背景を持つ研究者は、標準的な評価基準で有利になるようなリソースにアクセスできることが多い。そして、従来の選抜システムは、候補者のアイデアの説得力よりも過去の実績を重視するため、こうした人々が得をする傾向があるとClelandは言う。「私たちは、最も良いアイデアを持つ人々が上位に入るようにしたいのです」。

抽選制への賛否

Clelandは、他の助成機関も抽選制を試してみるべきだと主張する。けれども全員が賛成するわけではない。抽選により助成金を獲得したAckerleyも、この制度をよしとしていない。「私は評価委員会に認めてもらうために多くの時間を使っているので、彼らは筋の通った仕事をしていると思いたいのです」と彼は言う。「私は今まで、それなりの額の競争的資金を獲得しています。自分本位な理由かもしれませんが、抽選制ならここまでの助成は受けられなかったと思います」。

抽選制を採用する助成機関への申請には基本的な基準を満たすことしか求められないため、申請書は短くなる傾向がある。「質の高い提案を執筆することには大きな価値があると思います」とAckerley。

2019年にResearch Policy に発表した論文(M. Osterloh & B. S. Frey Res. Policy 49,103831;2020)で活発な議論を呼んだOstelohは、無作為選択にはもっと大きな利点もあるという。抽選によって利益を受けた人は、天狗にならないからだ。

「助成金を獲得したり論文を出版したりしたプロセスに、部分的に無作為選択が取り入れられていることを知っていれば、自分が宇宙の王様ではないことを実感し、より謙虚になることができるでしょう」と彼女は言う。「これこそ、科学において私たちが必要としているものです」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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