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高温に対する植物の応答には相分離が必要である

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201233

原文:Nature (2020-09-10) | doi: 10.1038/d41586-020-02442-x | The plant response to heat requires phase separation

Simon Alberti

温度は植物の地理的分布やその成長・発生速度を決定付けているが、植物がどのように高温を感知して応答を行っているのかは不明だった。今回、この応答性の背後にある過程が明らかにされた。

モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いた研究で、植物の高温応答のメカニズムの一端が明らかになった。 | 拡大する

Kristopher Grunert/Corbis/VCG/Getty

植物は、動物のように移動して過酷な条件から逃れることができない。そのため植物は、絶えず周囲の環境をチェックする必要があり、高温にさらされたときは、発生や成長に関わる遺伝子の発現を速やかに調節しなければならない。この温度応答性の基盤と考えられる分子過程について、ケンブリッジ大学(英国)および成均館大学(韓国水原)のJae-Hoon Jungら1が、Nature 2020年9月10日号の256ページで明らかにしている。

通常、動植物の発生や成長に関わる遺伝子は、24時間周期で規則的に発現する。こうした日内変動は、タンパク質活性のフィードバックループによって制御されている。これがいわゆる概日時計だ。概日時計が誘導する転写変化のおかげで、植物は日々の環境変化を予測することができる。

モデル植物種のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、EC(evening complex)と呼ばれるタンパク質複合体が概日時計の構成要素の1つとなっている。ECは日没時に最大の活性を示し、植物の発生に重要な多くの遺伝子の発現を抑制する。ECを構成するのは、転写因子タンパク質ELF3(図1)、低分子ペプチドELF4、そしてLUXと呼ばれるタンパク質だ。ELF3をコードする遺伝子が働かない変異を持つ植物体は、発生中に通常よりも早く開花し、胚軸と呼ばれる胚の茎を長く成長させる。このことから、発生ではELF3が重要な役割を担っていることが示唆されている。

図1 植物の高温応答を可能にしているメカニズム
モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、開花に関与するものを含めて、発生に関わる一部の遺伝子の発現をタンパク質ELF3が阻害する2。しかし、高温ではこの転写抑制が解除される2。Jungら1は、このELF3活性の切り替えがどのように行われるのかを明らかにした。 a 22℃では、ELF3は細胞内に広がって分布し、DNAに結合して転写を遮断している。 b 27℃では、ELF3は集合して「ドット(斑)」となる。Jungらは、これが温度に反応してばらばらの凝縮物を形成するELF3の相分離であることを示唆している。これにより、ELF3は標的遺伝子と結合することができなくなって不活性化し、当該遺伝子が発現して成長や開花が促進されるものと考えられる。 | 拡大する

温度の変動は、植物の概日リズムに影響を与えることが知られている。通常、22℃でのシロイヌナズナの成長は、夜明けごろに限られている。これは、日内の他の時間帯ではECの抑制的な作用が働くためだ2。一方、27℃ではこの成長抑制が緩み2、22℃での成長に比べ、開花が早まるとともに胚軸の伸長が加速する。しかし、そうした温度によって調節される成長の背後にあるメカニズムはこれまで謎だった。Jungらは、相分離と呼ばれる物理過程が植物の高温応答性の根幹にあるのではないか、という説を示した。

それを確かめるために、JungらはELF3に着目した。シロイヌナズナの遺伝子を改変し、ELF3を温度による開花の加速がみられない2種の植物の同類タンパク質と入れ替えた。その2種の植物とは、ジャガイモ(Solanum tuberosum)とミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)だ。遺伝子改変で得られたシロイヌナズナ植物体は、適温では野生型のシロイヌナズナと見分けがつかなかったが、高温で開花を加速させることができず、ELF3が温度応答性で重要な役割を担っていることが示唆された。

Jungらはさらに詳しく調べるため、ELF3の中で、極性(親水性)アミノ酸残基が多くて荷電残基が少なく、天然変性状態にあると予想される領域に注目した。そうしたタンパク質領域はプリオン様ドメイン(PrD)として知られ、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)では環境応答を生じさせているという説がある3,4。Jungらは、シロイヌナズナを遺伝子改変し、本来のPrDがミナトカモジグサのELF3の対応領域と入れ替わっているキメラタンパク質を発現するようにした。その結果、改変植物体には温度による開花の加速がみられないことが明らかになり、ELF3のPrDが温度応答性の確立で重要な役割を担っている可能性が示された。

シロイヌナズナのELF3のPrDには、アミノ酸のグルタミンが連続している部分、ポリグルタミン(ポリQ)反復配列と呼ばれる領域がある。Jungらは、PrDに長いポリQ反復配列を持っている植物種と高温での高速成長との相関に気付き、このポリQ反復配列がELF3の温度応答性を変化させていると考えた。一般に、反復配列の拡大は非反復配列と比較して高速で進化するため、この相関は、地球温暖化の結果として予測されている気温上昇に対する、植物の潜在的な適応法を示唆している。

ELF3の温度応答性の背後にある分子的変化を調べるために、Jungらはさまざまな生化学的、生物物理学的、細胞生物学的試験を利用した。その結果、低温下ではELF3は細胞内に広がって分布しているが、温度が上がると顕微鏡で観察可能な「ドット(斑)」に集合することが分かった。この作用はPrDの存在に依存し、観察される斑の数はポリQ反復配列の長さに従って増加した。重要なことに、温度が下がるとこうした斑の形成が逆戻りしたことから、これは不可逆的なタンパク質凝集事象ではなく、高温に対する正常な集合機構であることが示唆された。

過去の研究から、出芽酵母では、PrDを含むタンパク質が「相分離」と呼ばれる刺激依存的な現象を起こすという説が唱えられている3-5。相分離とは、油と水が別々の液相に分かれるように、よく混じり合ったタンパク質溶液が密な相(すなわち凝縮物)と疎な相とに「分離」される過程だ6,7。Jungらは、ELF3のPrDが凝縮物を形成するかどうかを調べるため、PrDを含むシロイヌナズナのELF3の断片を用いるin vitro実験を行った。実際にこの断片は温度依存的な相分離を示し、凝縮物形成の閾値は約28℃だった。これに対し、ミナトカモジグサの対応するELF3断片は、同じ条件で凝縮物を形成しなかった。このことは、シロイヌナズナのELF3のPrDがin vitroで温度依存的に凝縮物を形成することを示している。ただし、細胞内に観察される高温誘導性の集合体が不活性型ELF3の凝縮物なのかどうかは、まだ確認されていない。

次にJungらは、PrDの付近でELF3に結合するELF4に着目し、ELF4がELF3の温度応答性を阻害することを明らかにした。正常値を上回るレベルのELF4を発現するように遺伝子改変された植物体は、高温に応答して開花を早めることができなかったのだ。このことは、ELF4のELF3への結合がELF3による凝縮物の形成を調節することを示唆している。結合リガンドの作用による相分離の調節は広くみられる現象で、多相性の連鎖(polyphasic linkage)と呼ばれる8。しかし、ELF3とELF4との多相性の連鎖が温度による開花促進の阻害の基盤となっているのかどうかを明らかにするには、in vitroとin vivoでさらに実験を行う必要がある。

ポリQ反復配列はELF3の温度応答性を変化させるが、この応答性を働かせるにはそれだけでは不十分と考えられる。また、ELF3のこの特性を働かせているアミノ酸残基が何なのかも知られていない。PrDを含むタンパク質の相分離を解明するために、これまで別の系で行われている研究9では、FUSと呼ばれるヒトタンパク質など、主として温度が下がったときに相分離を起こすものに注目している。相分離を可能とするFUSの分子内相互作用のための凝集力は、芳香族(ベンゼン環やその類似構造を含むもの)や極性、あるいは塩基性のアミノ酸残基によるものだ9。ELF3は温度が低下ではなく上昇したときに相分離を起こすが、過去の研究5,10では、エラストマータンパク質(生体力学的機能を有する弾性タンパク質)の高温誘導性の相分離が、しばしば疎水性アミノ酸残基に依存することが示唆されている。実際、ELF3のPrDにはメチオニンなどの疎水性アミノ酸残基が複数含まれているが、それが凝縮物の形成で担う役割は知られていない。

ポリQ反復配列がどのように凝縮物の形成を変化させるのかという点も、確認すべき重要なポイントだ。ポリQ反復配列がELF3の可溶性を変化させ、相分離が起こる温度を変えている可能性も考えられる。

今回の研究は、将来に向けていくつかの興味深い疑問を提起している。例えば、植物細胞内でのこうしたELF3凝縮物の特性や構成はどんなものなのだろうか。ELF3のPrDは、温度以外に別の物理化学的刺激などのシグナルにも応答することができるのだろうか。このメカニズムは植物でどれくらい広がっているのだろうか。そして、植物以外の生物も刺激依存性の相分離によって概日時計の構成要素を調節しているのだろうか。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)では、転写因子タンパク質内のアミノ酸トレオニンとグリシンの反復配列が概日時計の温度応答性を調節している11。このことは、環境刺激と生物リズムとの連結に関して、相分離がこれまでの想定をはるかに超える広範な役割を担っている可能性があることを示唆している。

(翻訳:小林盛方)

Simon Albertiは、ドレスデン工科大学(ドイツ)に所属。

参考文献

  1. Jung, J.-H. et al. Nature 585, 256–260 (2020).
  2. Box, M. S. et al. Curr. Biol. 25, 194–199 (2015).
  3. Franzmann, T. M. & Alberti, S. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 11, a034058 (2019).
  4. Franzmann, T. M. et al. Science 359, eaao5654 (2018).
  5. Ruff, K. M., Roberts, S., Chilkoti, A. & Pappu, R. V. J. Mol. Biol. 430, 4619–4635 (2018).
  6. Banani, S. F., Lee, H. O., Hyman, A. A. & Rosen, M. K. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 18, 285–298 (2017).
  7. Shin, Y. & Brangwynne, C. P. Science 357, eaaf4382 (2017).
  8. Posey, A. E. et al. J. Biol. Chem. 293, 3734–3746 (2018).
  9. Wang, J. et al. Cell 174, 688–699 (2018).
  10. Quiroz, F. G. & Chilkoti, A. Nature Mater. 14, 1164–1171 (2015).
  11. Huang, Z. J., Curtin, K. D. & Rosbash, M. Science 267, 1169–1172 (1995).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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