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モーリシャス島沖での油流出事故、環境への影響は?

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201210

原文:Nature (2020-09-10) | doi: 10.1038/d41586-020-02446-7 | How Mauritius is cleaning up after major oil spill in biodiversity hotspot

Dyani Lewis

モーリシャス島の海岸に漂着した流出油。 | 拡大する

RajivPhotography/iStock/Getty

2020年7月25日、日本のOKIYO MARITIME社(長鋪汽船株式会社の子会社)が所有し、商船三井が運航するばら積み貨物船「わかしお」が、インド洋モーリシャス島南東沖のサンゴ礁で座礁した。当時、この船には軽油200tと燃料の重油3800tが積載されており、このうち推定1000tが8月6日、船体に入った亀裂から流出した。同様の事故はこれまで何度も繰り返されてきたが、大気汚染対策として導入された新しいタイプの低硫黄燃料が流出したのは、これが初めてである。今回の事故では、生物多様性ホットスポットである貴重な海岸線が15kmにわたって油で汚染された。ボランティアによる流出油の封じ込め作業を支援している、非政府組織(NGO)「モーリシャス海洋保全協会(Mauritius Marine Conservation Society;MMCS)」の会長Jacqueline Sauzierに、現状について話を聞いた。

これまでの対応について教えてください。

モーリシャスには、これほどの大事故に対処する体制が備わっていないため、他の国々から専門家が派遣されました。最初に到着したのは、近くのレユニオン島から駆け付けたフランスのチームで、オイルフェンス(流出油の拡散を防止する浮体)を設置してくれました。その後、国連からは油流出や危機管理の専門家などからなるチームが、日本と英国からは海洋生態学者などの専門家たちが到着しました。

モーリシャス国民も積極的に活動しました。サトウキビの製糖工程で出たトラッシュ(葉などの夾雑物)を使って、長さ約80kmに及ぶ簡易オイルフェンスを作ったり、海岸線への油の漂着を防ぐため、10日間にわたって昼夜を問わず回収作業を進めたりしました。油はひとたび漂着すると、除去するのが非常に困難なのです。こうした努力の結果、流出油の約75%を何とか海上で回収することができ、海岸に漂着したのはわずかな量でした。けれども、油由来の水溶性化学物質は海面に浮かんだ油と一緒にすくい取ることができないので、その影響が懸念されます。

影響を受けたのはどの生態系ですか?

報道からは、モーリシャス全域が油まみれになったかのような印象を受けますが、実際に影響を受けたのは、全長350kmある海岸線のうち15kmほどで、それは不幸中の幸いでした。

ただ、残念ながら、今回被害を受けた海域には数多くの環境脆弱地域(ESA)があります。わかしおは、ポワント・デスニー沖の海洋保護区ブルーベイ海洋公園のすぐ北で座礁しましたが、この区域は湿地に関する国際的なラムサール条約で生物多様性ホットスポットに指定されています。幸い、油は北に流されたので、海洋公園自体は無事でしたが、ポワント・デスニーの北にあるマングローブ林は油まみれになりました。マングローブ林は多くの生き物たちの養育場なので、今後大きな影響が出ることは間違いありません。

座礁現場に近い、エグレット島も影響を受けました。この島は、絶滅危惧種のモモイロバト(Nesoenas mayeri)やテルフェアトカゲ(Leiolopisma telfairii)など、貴重な固有種の生息地になっています。油は島の陸地部分までは達していませんが、水溶性の化学物質がサンゴに染み込んだ可能性があり、揮発性物質の影響も考えられます。

特定の生物種が影響を受けたのでしょうか?

どれか1つの種ということはありません。生態系全体が危機にさらされる可能性があるのです。水中で拡散した化学物質によって、サンゴや甲殻類などの濾過摂食動物が最初に影響を受けるでしょう。動物の大量死は今のところ確認されていませんが、兆候を見逃さないよう監視を続ける必要があります。

懸念は他にもあります。長期的な影響が不明なことです。今回流出したのは、大気汚染対策として導入されつつある新しいタイプの低硫黄燃料で、このタイプの油が流出したのは今回が初めてです。長期的な研究は行われておらず、どういった影響が生じるか分からないのが実情なのです。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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