紫外線照明で衝突防止
人間の活動は環境汚染から建造物までさまざまな要因によって、野生動物の命をかつてないスピードで奪っている。一部の鳥は夜間に送電線と衝突することで個体数をかなり減らしている。最近、鳥にとって電線を見やすくし、それでいて人間には目障りにはならない方法が考案された。
電力業界と米国魚類野生生物局(FWS)のガイドラインは共に、送電線にプラスチック製の目印をつけて視認性を高めるよう電力会社に推奨しているが、それでも鳥の衝突死は続いている。2009年春、カナダヅルが渡りのシーズンに毎年立ち寄る米国ネブラスカ州ロウ・サンクチュアリで目印付きの電線に衝突し、1カ月で300羽が死んだと生物学者チームが報告した。
ツルの衝突98%減
鳥類の種の半数は紫外線を視認できる。そこで公益事業コンサルティング会社EDMインターナショナル(米国コロラド州フォートコリンズ)の野生生物学者James Dwyerは、近紫外線で送電線を照明することを思い付いた。EDMの技術チームと電力会社ドーソン・パブリック・パワー・ディストリクトはそうした照明システムを開発し、ロウ・サンクチュアリにある送電塔の1つに設置した。紫外線照明を点灯した38夜の間、ツルの衝突は98%減った。2019年5月にOrnithological Applicationsに報告。
エジソン電気協会の環境活動担当理事Richard Loughery(この試みには加わっていない)は、新紫外線システムは絶滅の危機に瀕した鳥類が繁殖・採餌するホットスポットで利用できる重要な手段になるという。
研究チームによると、紫外線照明によって鳥以外の生物種に悪影響が生じた例は見られず、昆虫が紫外線ランプに群がることも、コウモリなどが餌を求めて集まることもなかった。さらに、こうした地表近くの紫外線照明を鳥が星の光など自然の手掛かりと間違える可能性は低いという。
「新手段があるからといって電力会社が好き勝手に送電線を設置するのはよくありません」と、FWSの生物学者Robert Harms(この試みには加わっていない)は言う。だが既存の送電線に関しては、この紫外線システムは「間違いなく素晴らしいです」。
翻訳:鐘田和彦
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190905b
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