電気装置の故障を予知
米国の沿岸警備隊の巡視船スペンサー号のディーゼルエンジンは見たところ正常だった。だが新開発のセンサーシステムは、エンジン始動前のウオーミングアップに使われる一連のヒーターの故障を表示した。船員がヒーターの金属カバーを外したところ、腐食した配線から煙が出ていた。
ヒーターはその機能を失っていただけでなく、「電気絶縁部に擦り切れやひび割れが生じ、火災を起こす寸前でした」とマサチューセッツ工科大学(米国)の教授で新システムに関する論文を2019年3月のIEEE Transactions on Industrial Informaticsに共著したSteven Leebは言う。「私たちの電源モニターは年間を通じたゆっくりした変化を検知でき、重大な故障が生じる時期を予見していたのです」。
このシステムは「非侵入型負荷監視」という技術を利用している。船舶も建物もその装置が単一の電源に接続されていることが多く、それぞれの装置に流れる電流に独特の変化が生じる。非侵入型負荷監視センサーはこの電気回路網の中の一点に設置され、それらの独特な“指紋”を抽出して各装置がどれだけの電力を使っているかを判別できる。非侵入型負荷監視の起源は1980年代にさかのぼるが、実用的な応用が登場したのはここ数年のことで、電力会社や独立系の新興企業が住宅やビルの電力使用状況を把握するスマートメーターを開発するようになってからだ。
新システムは非侵入型負荷監視データを処理し、その結果を沿岸警備隊の巡視船のダッシュボードに表示する。「Leebらは便利なツールを開発しました」とマサチューセッツ大学アマースト校(米国)の電気・コンピューター工学のDavid Irwinは評する。非侵入型負荷監視の学術研究は難解になりがちなのに対し、Leebのチームは実世界での利用に的を絞り、センサーを商業用途にうまく応用することに成功したとIrwinは言う。
同様のダッシュボード表示は、マイホームの所有者に電気製品の故障を警告できる他、産業や軍事の場でも極めて重要な役割を果たす可能性がある。「診断は装置の故障を検知するのが狙いですが、装置がいつ壊れそうかを予知できればさらによいと思います」とLeebは言う。スペンサー号のエンジン部品の故障を早期に検知したことで、沿岸警備隊はこの船が停泊している間に部品を交換できた。
翻訳:鐘田和彦
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190805b
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