高速電波バーストの反復型の発見例増える
カナダ西部のブリティッシュコロンビア州にあるCHIME電波望遠鏡。それぞれ長さ100m、幅20mの固定反射鏡を備えたアンテナ4基からなる。 Credit: CHIME COLLABORATION
高速電波バースト(fast radio burst;FRB)と呼ばれる謎の天体現象は、極めて強い電波をごく短い時間、放射するものだ。FRBの謎を解くために重要な、放射を繰り返すタイプ(リピーター)のFRBを新たに8個発見したことを、カナダの電波望遠鏡で観測している研究グループが2019年8月、報告した。発見されたリピーターは計11個になり、天文学者たちは、FRBの発生源と発生原因の解明に向けて一歩前進した。
FRBは、極めて強い電波を出す現象で、わずか数ミリ秒ほどしか続かない。発生源は、空のあらゆる方向に分布していて、銀河系(天の川銀河)の外にあるとみられている。最初のFRBは2007年に発見されたが、原因は今も謎のままだ。
天文学者たちは、1回きりのFRBではなく、電波を繰り返し放つFRBを調べれば、その原因の解明に役立つと考えている。リピーターであれば、高解像度の望遠鏡で追跡観測を行って発生源を探し出しやすいからだ。2019年8月の報告の前までに見つかっていたFRBは約75例あったが、リピーターであることが分かっていたのは2個だけだった。初めて発見されたリピーター、「FRB 121102」(2012年に初観測)は徹底的に研究された。
カナダの電波望遠鏡「CHIME」(カナダ水素強度マッピング実験)で観測を行っている研究グループは2019年1月、2個目のリピーターの発見を報告した。CHIMEグループは2019年8月9日、さらに8個のリピーターを発見したことを報告する論文をarXivプレプリントサーバーに投稿し、リピーターは決して稀ではないことを示した(B. C. Andersen et al. https://arxiv.org/abs/1908.03507; 2019)。
オーストラリアなどの研究グループも2019年8月、同国西部にある電波望遠鏡オーストラリア・スクエア・キロメートル・アレイ・パスファインダー(ASKAP)が2017 年に観測した1例のFRBについて、再び放射が見られたことをarXivに報告し、発見されたリピーターは全部で11個になった。
CHIMEは2018年にFRBの探索を開始した(2018年3月号「2018年、科学界はどう動く?」参照)。CHIME計画の研究者でトロント大学(カナダ)の天文学者Bryan Gaenslerは、ツイッター上で2019年8月12日、1回限りのFRBも数百例発見していることを明らかにした。彼は、「発見したイベントは研究グループでまだ分析中です。今回の観測計画は、私の25年間の天文学研究で間違いなく最もエキサイティングな計画です」と書いた。
発生原因は何か?
マックス・プランク電波天文学研究所(ドイツ・ボン)の天文学者Laura Spitlerは、「今回のCHIMEの報告は、相当興味深いものです」と評価し、「現在の天文学者たちの優先事項は、こうしたリピート信号がやって来る銀河を突き止めることです」と話す。ホスト銀河を突き止めることは、何がFRBを起こすのかという謎を解くために不可欠だからだ。
現在、FRBの発生原因にはたくさんの説がある。天文学者たちは、FRBは、若いマグネター(強い磁場を持つ中性子星)からの放射、あるいは宇宙ひも(時空の位相的欠陥の一種)からの放射ではないかと提案する。FRBが発生する環境が分かれば、多数ある説を絞り込むことができるはずだ。
Spitlerは「今回の発見は、1回限りのFRBと比較できるだけの数のリピーターが集まり、2種類のFRBが同様の環境で生じるのかを調べることができるようになってきたことを意味しています」とも指摘する。全てのFRBの原因が、基本的には同じである可能性はある。FRBは繰り返していたが、その一部は今まで検出されていなかっただけなのかもしれないし、あるいは、FRBの発生源はある条件下でのみFRBを放つのかもしれない。一方、繰り返すものと繰り返さないものは、異なる現象によって引き起こされている可能性もある。
CHIMEグループはすでに、この疑問に答えるための手掛かりを見つけている。8個のリピーターは、1回限りのFRBと同様の距離範囲にあるらしい。しかし、リピーターの信号の平均の持続時間は、1回限りのFRBよりも長いことをCHIMEグループは報告している。Spitlerは、「もしもこの傾向が確かなら、2つの別の現象が異なるタイプのFRBを起こしている証拠かもしれません。持続時間はFRBを生む基本的なメカニズムを反映するからです」と話す。
CHIMEのデータは、リピーターが放射される環境の違いも明らかにしている。FRB 121102はホスト銀河が決定された唯一のリピーターだが、電波の偏光面が回転していて、磁場の中を電波が通過して来たことを示していた。新たに見つかった8個のリピーターの1つも、電波の偏光面が回転していることが分かった。しかし、新しいリピーターの偏光面の回転の程度は、FRB 121102と比べてわずかで、リピーターが発生する環境が1つではないことをほのめかした。
全てではないが、新たに見つかったリピーターの多くも、最初の2つのリピーターと同じ特徴を持っている。つまり、信号は、狭い周波数範囲の単純な信号ではなく、周波数が時間とともに下がる。CHIMEグループは、この特徴を「悲しいトロンボーンの音」に例えている。Spitlerは「そうした『悲しいトロンボーン』信号はかなり稀で解明が難しいものです。それを説明することも理論研究者の課題です」と話す。
Gaenslerは「今回の報告は、『CHIMEで得られるすごいこと』のちょっとした予告編にすぎません」ともツイッターで書いている。CHIMEは、カナダのブリティッシュコロンビア州ペンティクトン近郊にあり、スケートボードなどの競技に使われるハーフパイプに似た形状の電波望遠鏡だ。建設費1600万カナダドル(約13億円)で、当初は初期宇宙からの電波を観測するために計画された。
翻訳:新庄直樹
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12
DOI: 10.1038/ndigest.2019.191218
原文
Astronomers closer to cracking mystery of fast radio bursts- Nature (2019-08-13) | DOI: 10.1038/d41586-019-02455-1
- Elizabeth Gibney
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