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カロリー制限による老化減速をヒトでも確認

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180609

原文:Nature (2018-03-29) | doi: 10.1038/d41586-018-03431-x | Reduced-calorie diet shows signs of slowing ageing in people

Alison Abbott

カロリー摂取を控えると代謝を減速させられるかどうかがヒトでも調べられ、これまでで最も強固な証拠が得られた。

ヒトでの無作為化比較試験で摂食量を減らすことが代謝に影響を及ぼすことが示された。 | 拡大する

CARLOS SANCHEZ

線虫、ハエ、マウスなどの短命な動物を用いた研究ではこれまで、カロリー摂取量を制限することで代謝が低下し、寿命が延長することが示されている。しかし、より長命のヒトや他の霊長類での実験は実施が難しく、これまで明確な結論に達することがなかった。このほど、健康で非肥満の成人200人以上を対象に2年間カロリー摂取量制限を行い、それが代謝にどのような影響を及ぼすかを調べる「CALERIE」と呼ばれる多施設共同無作為化比較臨床試験から、結果の一部が報告された。CALERIEは、国立衛生研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の助成を受けている。

「CALERIE試験は、ヒトでも老化の速度を変化させることが可能なのかという疑問に取り組むために重要です。このたびの報告は、他の動物で学んできた全てのことがヒトにも適用できるという、これまでで最もロバストな証拠を示しています」と、ウィスコンシン大学マディソン校(米国)で老化を研究しているRozalyn Andersonは言う。彼女は、アカゲザルにおけるカロリー摂取量制限の影響を調べる独立した2つの大規模研究のうちの1つを率いている。

今回報告されたのは、ペニントン生物医学研究センター(米国ルイジアナ州バトンルージュ)で行われた被験者53人のCALERIE試験の結果である。この施設には、世界に約20ある「メタボリックチャンバー」と呼ばれる代謝を測定するための最先端の設備のうちの4つがある。メタボリックチャンバーは、ホテルの小さな部屋のような密室で、部屋の中にいる人が吸い込んだ酸素量や、吐き出した二酸化炭素量が毎分測定される。Andersonは、「この装置を用いることで、メタボリックチャンバーの中にいる人が消費したエネルギーをこれまでにないほど正確に追跡できます」と言う。試験参加者の酸素と二酸化炭素の比を尿中窒素の解析と組み合わせることで、脂肪、炭水化物あるいはタンパク質のいずれが燃焼しているかを明らかにできる。

被験者の年齢は21~50歳で、2群に無作為に割り付けられた。34人はカロリー摂取量を平均15%減らして過ごし、対照群の19人は、通常のカロリー摂取量を維持して過ごした。2年後、被験者は全員、代謝と老化の生物学的マーカー群に関する検査を受けた。検査の際、被験者はメタボリックチャンバーに24時間とどめ置かれた。

カロリー摂取量を制限した群は対照群に比べて、睡眠中にはるかに効率的にエネルギーを利用していることが分かった。制限群の基礎代謝率の低下は、参加者1人当たり平均約9kgの体重減少が起こったという結果から予測されるよりも大きかった。他の臨床測定値全てが代謝率の低下と合致しており、老化による損傷が減少したことを示していた。この結果は、2018年4月3日号のCell Metabolismに報告された1

モデル代謝

ヒト以外の種ではカロリー摂取量の制限によって大幅に寿命が延長することが知られている。1990年代には、短命な線虫の一種やキイロショウジョウバエの寿命に能動的に関与する遺伝子や生化学経路が突き止められ始めた。これらの中にはインスリン感受性や、ミトコンドリア(酸素を使ってエネルギーを産生する細胞小器官)の機能に関係する経路が含まれている。より最近の研究から、マウスやサルでカロリー摂取量を制限すると、同様の経路が変化することが明らかになった。食餌の量を制限されたマウスは、自由摂食マウスより最大65%寿命が延長した。また、サルで現在進められている研究からは、寿命の延長や老化徴候の減少が示唆されている。

「実際に人々が長生きするかどうかを確認するために、ヒト寿命研究には今後数十年にわたり潤沢に資金が投入されることでしょう」と、ペニントン生物医学研究センターの生理学者Leanne Redmanは言う。彼は今回の研究論文の筆頭著者である。2年間にわたるCALERIE試験の目的は、長期間のカロリー摂取量制限により他の生物で観察されたような代謝、ホルモン、遺伝子発現の適応の一部が見られるかどうかをヒトで調べることだった。

今回の研究の参加者は、厳しいカロリー摂取量制限を行った。これを行いたいと思う、あるいは実行できる人は、わずかしかいないと考えられる。「しかし、カロリー摂取量を制限すると寿命が延びる仕組みの生物学的性質を理解できれば、より簡単な介入法を見つけられるでしょう」とAndersonは言う。

Redmanは、もう少し軽度のカロリー摂取量制限と、酸素フリーラジカルによる損傷を軽減させる抗酸化物あるいはレスベラトールのような薬剤を含む食事を組み合わせる手法により、カロリー摂取量制限の重要な面を模倣できるか調べるため、研究を繰り返したいと考えている。

他にも、毎月数日間だけカロリー摂取量制限した際の影響を調べる試験を始めている研究者もいる。マウスでは、このような間欠的な制限であっても、糖尿病や神経変性などの加齢性疾患から保護される効果は、連続的な制限と同程度であることが報告されている2。さまざまな疾患において間欠的なカロリー摂取量制限の臨床試験を始めている、南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)の老年学者Valter Longoは「この方法により、カロリー摂取量を常に制限をしなくても、あらゆる利益を得られるようになると考えています」と言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Redman, L. M. et al. Cell Metab. http://doi.org/cmrx (2018).
  2. Longo, V. D. & Mattson, M. P. Cell Metab. 19, 181–192 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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