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ゲノム編集技術で生細胞DNAに動画を保存

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170904

原文:Nature (2017-07-12) | doi: 10.1038/nature.2017.22288 | Biologists use gene editing to store movies in DNA

Heidi Ledford

生きた細胞のゲノム内に動画を記録できることが大腸菌で実証された。

インターネットのユーザーはさまざまな種類のフォーマットを使って動画を保存するが、今や生物学者も手元の素材を使ってそれと同じことができるようになった。CRISPR–Cas系というゲノム編集ツールを利用して、大腸菌のゲノム内に動画をコード化して記録し、読み出すことが可能になったのである。

Nature 7月20日号 345ページに掲載されたこの技術的成果1は、一連の事象をコード化して細胞内に記録できるシステムの構築に向けた一歩だと、この論文の筆頭著者であるハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の合成生物学者Seth Shipmanは話す。Shipmanは脳発生の研究をしていて、脳内の細胞が異なる性質を持つようになる仕組みを捉えるための手法がないことに、もどかしさを感じていた。そこで彼は、細胞内レコーダー作成の可能性を探ろうと思い立った。

「細胞には、あらゆる種類の内部情報に対するアクセス特権があります」と彼は説明する。「ですから、発生中の神経系で機能して情報を記録するような、分子レベルの細胞内記録システムが欲しいなと思ったのです」。

CRISPRで切り抜き

しかし、そうしたシステムを開発するには、細胞内に数百の事象を記録するための方法を確立する必要があった。そこでShipmanがハーバード大学の遺伝学者George Churchらと採用したのが、ゲノムを比較的容易に、かつ高精度で変更できる「CRISPR–Cas免疫系」だ。

CRISPR–Cas系は、微生物が持つ適応免疫に似た機構で、侵入ウイルスから捕捉したDNA断片を、宿主ゲノムの編成された配列内に保存できる。Shipmanらはこの能力を利用した。自然界では、こうしたDNA断片はその後、DNA切断酵素が侵入ウイルスのDNAを標的にして切り刻むのに使われる(遺伝学者が遺伝子編集に使っているのは、こちらの標的DNA切断機構である)。

Shipmanらは、画像を構成する画素とこれらのDNA断片を対応させるシステムを設計した。そして、それぞれの画素の明暗を(画像内のその位置を示すバーコードと一緒に)コード化して、33塩基からなるDNA配列中に保存した。動画のコマ1つは、これらのDNA断片104個で構成されている。

手の画像(左)を、細菌DNAにコード化して記録し、その後、細菌が何世代かにわたって増殖してから画像を読み出した(右)。 | 拡大する

Seth Shipman

今回の実験で選ばれた動画は5コマと短く、英国の写真家エドワード・マイブリッジの『Human and Animal Locomotion(人と動物の動き)』シリーズにある連続写真5枚をつなげたものだ。1887年に発表されたこれらの写真は、「Annie G.」という名の雌ウマがギャロップで駆ける様子を捉えている。

Shipmanらは、1日に1コマのペースで5日かけて5コマ分のDNAを大腸菌に導入し、その後、大腸菌集団のCRISPR領域の塩基配列を読み取って、画像を復元した。CRISPR系はDNA断片を順に加えていくので、それぞれのDNA断片が配列内で取る位置から、導入された断片が何コマ目のものかを判定できる。

コード化の革命

今回報告されたシステムはまだ、Shipmanが脳の研究中に夢見た細胞内レコーダーからはほど遠いものだ。Shipmanの考えたレベルに達するには技術的にかなりの進歩が必要だと、チューリヒ工科大学(スイス・バーゼル)の生体工学者Randall Plattは話す。1個の細胞が担うのは各コマの1画素分の情報だけなので、動画の情報は複数の細胞集団全体に保存されることになる。また、CRISPR配列を哺乳類細胞に移入した研究者はまだいない。「このように制約だらけの状況ですが、今回の研究が先駆けとなってくれました。見事だと思います」と彼は話す。

他のCRISPR–Cas系を使うことで、RNAをDNAに変換し、次にそのDNAをCRISPR配列に組み込むことができる2。こうすることで、RNAを除去するために細胞をこじ開けることなく遺伝子発現を追跡する道が開けるのではないか、とPlattは指摘する。

半導体研究会社(SRC;米国ノースカロライナ州ダラム、米国の大学における半導体技術の開発指揮と研究者育成を目的に設立された合同出資の非営利会社)の主任研究員Victor Zhirnovは、今回の研究成果を「革命的だ」と評し、この技術の応用研究をSRCで始めたいと考えている。「1903年に飛行機による世界初の有人飛行が行われた当時、飛行機は珍しい存在でした。しかし、初飛行から10年も経つと、飛行機はもう珍しくない存在になっていました。この技術もそれと同じようなことが言えます」とZhirnovは話す。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Shipman, S. L., Nivala, J., Macklis, J. D. & Church, G. M. Nature 547, 345–349 (2017).
  2. Silas, S. et al. Science 351, aad4234 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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