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脅威となる耐性菌ランキング

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170612

原文:Nature (2017-03-02) | doi: 10.1038/nature.2017.21550 | The drug-resistant bacteria that pose the greatest health threats

Cassandra Willyard

世界保健機関は、対策が必要な耐性菌をランク付けしたリストを初めて公開した。新たな抗生物質の研究開発にぜひ役立ててほしいという意図からだ。

アシネトバクター・バウマニの電子顕微鏡画像。 | 拡大する

BSIP/UIG Via Getty Images

世界保健機関(WHO)は、人類の健康に最大級の脅威を与え、新規の有効な抗生物質を緊急に必要としている薬剤耐性菌のリストを、今回初めて公開した。

この「対策を優先すべき耐性菌」のリストを作成したWHOの意図は、最も必要な抗菌剤を明確にして開発資金の投入を促すことだ。このリストを見れば、細菌が次々と抗生物質耐性を獲得している危険な状況を再確認できると、研究者らは話す。

このリストは12の細菌の種や科をランク付けしてあり、トップはカルバペネム耐性のアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)である。この細菌は一般の知名度は低いが、重篤な感染症を引き起こし、その治療法はほとんどなく、また、感染するのは主に、すでに重篤な状態の患者である。なお、この細菌が耐性を持つカルバペネム系抗生物質は、他のどの治療薬も効かない場合にのみ使われる「最後の切り札」である。今回のリストには、院内感染の原因となる多剤耐性菌がこの細菌の他にもいくつか含まれている。また、肺炎や淋病を起こすものなど、よく知られた細菌も含まれている(「耐性菌の脅威度リスト」参照)。

抗生物質耐性菌によって世界で年間70万人が死亡していると推定されており、一部の専門家の予測では、もし耐性の抑制や新規抗生物質の開発への取り組みが行われない場合、耐性菌による年間死亡者数は2050年には1000万人にもなる可能性がある。新規の抗生物質を緊急に必要としているにもかかわらず、かつて骨太だった抗生物質開発パイプラインは現在、有望な化合物をほんの少ししか生み出せていない。2016年9月の時点で、米国の市場向けに臨床開発中の新しい抗生物質は40種類ほどしかなく、抗がん剤の数百種類に比べると差は歴然としている。

製薬会社の多くは、抗菌剤の開発は割に合わないと考えている。「大半の感染症はまだ、既存の薬剤に感受性がありますからね」と、非営利民間組織のピュー慈善財団(The Pew Charitable Trusts;米国ワシントンD.C.)で抗生物質耐性への取り組みを監視しているAllan Coukellは説明する。「もし新しい抗生物質ができても、実際にはそれを使わず、既存薬への耐性を獲得した細菌の感染に備えるために温存しておきたいと考えるでしょう」。つまり、新しい抗生物質の市場規模はかなり小さく、企業はそうした抗生物質をわざわざ売ってコストを回収しようとまでは考えないだろう。

今回のリストを作成するにあたって、WHOの専門家やチュービンゲン大学感染症部(ドイツ)の研究者らで構成される少人数のチームはまず、既存の同じようなランキング表を土台にした。例えば、米国疾病管理予防センター(CDC;ジョージア州アトランタ)の2013年のリストや、カナダの2016年のリストである。WHOのチームはさらに、病原菌の致命性や、耐性のレベル、拡散のしやすさといった要因も考慮した。

リスト作成にあたって、まず、十分な衛生設備やワクチン接種といった他の手段による対策が有効な細菌は除外された。その結果、12の科の20種の細菌からなるリストがひとまず出来上がった。それらをランク付けするため、リスト作成チームは、それぞれの細菌に関するデータを世界中の専門家70人に渡した。ただし、バイアスがかかるのを避けるため、病原菌の名前は伏せられた。

Coukellによれば、今回のWHOのリストは有用なものだが、薬剤開発者は必ずしもリストの上位から先に手をつけなくてよいという。抗生物質の開発は、科学的にも経済的にも容易ではないからだ。さらに、南カリフォルニア大学ケック医学校(米国ロサンゼルス)の感染症専門家Brad Spellbergは、創薬の観点からこう話す。「低い位置にあって簡単に手が届く果実は、すでに誰かが摘み取っているものです」。

耐性菌の脅威度リスト

人類の健康に対する脅威度の高さに基づいて、細菌の種や科をランク付けしてある(カッコ内は耐性のある抗生物質)。

  1. アシネトバクター・バウマニ(カルバペネム)
  2. 緑膿菌(カルバペネム)
  3. 腸内細菌科、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(カルバペネム、セファロスポリン)
  4. エンテロコッカス・フェシウム(バンコマイシン)
  5. 黄色ブドウ球菌(メチシリン、バンコマイシン)
  6. ヘリコバクター・ピロリ(クラリスロマイシン)
  7. カンピロバクター属種(フルオロキノロン)
  8. サルモネラ属種(フルオロキノロン)
  9. 淋菌(セファロスポリン、フルオロキノロン)
  10. 肺炎連鎖球菌(ペニシリン非感受性)
  11. インフルエンザ菌(アンピシリン)
  12. 赤痢菌属種(フルオロキノロン)

SOURCE: WHO

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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