News

マウスの脳全体を包む巨大ニューロン

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170615

原文:Nature (2017-03-02) | doi: 10.1038/nature.2017.21539 | A giant neuron found wrapped around entire mouse brain

Sara Reardon

ニューロンを三次元画像で追跡できる新技術により、意識に関連する領域から出た神経細胞が「イバラの冠」のように脳を包み込んでいることが明らかになった。

拡大する

ALLEN INST. BRAIN SCI.

しがみつくところを探してランナー(匍匐枝)を伸ばすツタ植物のように、脳のニューロンも他のニューロンに接続するために新しい枝を脳全体に送る。新しいデジタル再構成法により、脳全体に広範囲に枝を伸ばす3つのニューロンが示された。そのうちの1つは脳の外層全体を包み込んでいる。この知見は、脳が意識を生み出す仕組みを説明するのに役立つかもしれない。

アレン脳科学研究所(米国ワシントン州シアトル)の所長Christof Kochは、2017年2月15日にベセスダ(メリーランド州)で開かれたBRAIN(Brain Research throght Advancing Innovative Neurotechnologies:革新的神経技術の進歩を通した脳研究)イニシアチブの会議で、彼の研究チームが開発した技術について説明した。

Kochは、彼のチームがどのようにして「前障」と呼ばれる小さな薄い細胞層の3つのニューロンを追跡したかを示した。前障は、ヒトとマウスにおいて意識の基盤になる領域だとKochは考えている(F. C. Crick & C. Koch Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 360, 1271–1279; 2005)。

従来の方法を使用した場合、ニューロンの全ての枝をたどるのは、大変な仕事である。まず、おのおのの細胞に染料を注入して脳の薄い切片を作り、それから染まったニューロンの経路を手作業でたどらなければならない。1個のニューロンを脳全体にわたって追跡できた例はほとんどない。しかし、Kochらが開発した新しい方法は、侵襲性が低く、スケーラブル(拡大縮小が可能)でもあり、時間と労力を節約できる。

Kochらは、ある薬剤により前障ニューロンの特定の遺伝子が活性化されるよう遺伝子改変したマウス系統を作出した。マウスにその薬剤を少量経口投与すると、ほんの数個程度のニューロンがこれらの遺伝子のスイッチを入れるのに十分な量の薬剤を取り込んだ。

その結果、緑色蛍光タンパク質が生産され、ニューロン全体にいきわたった。その後チームは、マウス脳の1万個の横断面画像を撮影し、コンピューター・プログラムを使用してニューロンのうち3個のみが光っている三次元再構成画像を作り上げた。

3個のニューロンは脳の両半球全体に枝を伸ばしており、それらのうちの1つは「イバラの冠」のように脳の全周に巻きついていた、とKochは言う。脳領域全体に枝を広げているニューロンは今まで見たことがないと、彼は言い足す。

たくさんの接続

マウスの体には他にも長いニューロンがある。例えば、脚部の神経突起や、脳幹を出て脳内を縫うように走り、神経伝達分子を分泌するニューロンなどだ。しかし、これらの前障ニューロンは、知覚情報を取り込み、行動を引き起こす脳の外側部分のほとんど、あるいは全てと接続しているように思われる。

Kochはこれを、「前障が脳全体で入力と出力を調整し、意識を生み出している」という考え方を証明する証拠だと考える。ヒトの前障は最も密に接続されている脳領域の1つであることが脳スキャンから示されている(C. M. Torgerson et al. Hum. Brain Mapp. 36, 827–838; 2015)が、それらの画像は個々のニューロンの経路を示してはいない。

前障はマウスで詳しく研究が行われており、またほんの数種類の細胞で構成されているので、「新しい方法を試すのに適した脳領域だ」とペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の薬理学者James Eberwineは言う。

結果を吟味

コロンビア大学(米国ニューヨーク)の神経生物学者Rafael Yusteは、この方法を「とても見事だ」と称賛する。しかし彼は、脳を包むニューロンが存在していても、前障が意識に関わっているという決定的な証拠にはならないと考える。

とはいえYusteは、この技術は脳の異なる細胞タイプを明らかにする調査に役立つだろうと述べる。そして多くの人が、脳細胞のタイプを知ることが脳機能の仕組みを理解するのに重要になるだろうと考えている。「アルファベットが分からないのに、言語を解読しようとするようなものだ」と彼は言う。

YusteとEberwineは、個々のニューロンに発現している遺伝子の分析に比較してそれらのニューロンの三次元再構成画像を見たいと考えている。これによってそれぞれの細胞のタイプと機能に関する手掛かりが得られるかもしれない。

Yusteは、これらの遺伝子発現パターンがニューロンの形と相関しているかどうかも明らかでないと言う。アレン脳科学研究所によって開発されたような画像化技術が、そのような相関関係が存在するかどうかを調べる助けとなるはずだ。

Kochは、前障から出るニューロンのマッピングを続けていくつもりだが、この技術にはコストがかかりすぎるため、これらのニューロンの全てを大規模に再構成するのに使うことはできない。彼は、前障の全てのニューロンが脳内全体に枝を広げているのかどうか、あるいはそれぞれのニューロンは独特で、わずかに異なる領域に投射しているのかどうかを知りたいと考えている。

(翻訳:古川奈々子)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度