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種内競争で毒を強めるオタマジャクシ

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171205

原文:Nature (2017-09-29) | doi: 10.1038/nature.2017.22734 | Toad tadpoles turn homegrown poisons on each other

Christie Wilcox

ヨーロッパヒキガエルのオタマジャクシが、同種のライバルの数に応じて毒の強さを変えることが明らかになった。これは、動物の毒性が、捕食者ではなく競争者の増加によって増強されることを示した初めての例である。

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Michel Loup/Biosphoto/Getty

多くのヒキガエルは強力な毒で捕食者から身を守っているが、その幼生であるオタマジャクシの中には、この毒素を同種間の競争で使うものがいることが、新たな研究で明らかにされた。Functional Ecologyに9月23日付で掲載された論文1によれば、ヨーロッパヒキガエル(Bufo bufo)のオタマジャクシは混み合った条件で育つと毒性が強まり、こうした強毒性が種内競争において優利に働いている可能性があるという。

毒を持つ植物の多くは、さまざまな脅威に応じて防御を調節していることが知られており2、捕食者から身を守るための化学物質を、競争相手に勝つために利用している種も少なくない。しかし、自由に動き回れて多様な行動をとり得る動物にも、競争相手に応じて毒性を調節する能力があるかどうかは、ほとんど明らかにされていなかった。一部のヒキガエルでは、幼生時に強い捕食圧を受けると成体が産生する毒素の量が増加することが知られている3が、個体群の密度が高くなると毒性が増すという今回の知見は、脊椎動物の毒素合成が競争によって促進されることを示す最初の決定的証拠である。

毒を身につけた生物種は、基本的に捕食者に食べられなくなるが、強力な毒素の産生には代謝コストがかかるため、そうした投資に見合った利益を生むことが望ましい。今回の論文の筆頭著者であるハンガリー科学アカデミー(ブダペスト)の生態学者Veronika Bókonyは、「毒を持つ動物にとって、捕食者用の毒素を競争相手への化学兵器としても使うことは、まさに一石二鳥で、とても有益でしょう」と話す。

ヨーロッパヒキガエルは、ブファジエノリド類と呼ばれる一連の強力な毒素を持ち合わせており、これらの毒素は心拍を速めたり乱したりすることで害を及ぼす4。野外研究からは、ヨーロッパヒキガエルのオタマジャクシの毒性が地域によって異なり、競争の激しさが最も確実な予測因子であることが示されている5。しかし、そうしたパターンが、異なる池に生息する個体群が互いに遺伝的に隔離されているために生じるのか、それとも環境要因によって誘発される防御応答を反映しているのかは、これまで不明だった。

そこでBókonyらは、この疑問を実験室で検証することにした。研究チームは、多数の人工池を用意して個体数以外の条件を一定に保ち、ヨーロッパヒキガエルのオタマジャクシを密度をさまざまに変えて数週間飼育した。ここで、個体群密度は競争の程度を表す代理指標となる。さらに、他種個体との相互作用を調べるため、野生で同じ池に生息し、類似の餌を食べるダルマチアアカガエル(Rana dalmatina)のオタマジャクシを用いて、2種がいくつかの異なる割合で混合した池や、ダルマチアアカガエルのみの池も作った。ダルマチアアカガエルは、ヨーロッパヒキガエルよりも卵が早く孵化し、より大きく成長するため、「強い競争相手」といえる。また、ダルマチアアカガエルには成体にも幼生にも毒がないことから、研究チームは、ヨーロッパヒキガエルの毒素が、特にこの強力なライバルの成長や発生を阻害するために使われているのではないかと考えた。このように、隣接して生活する競争者に負の影響を与える現象は「他感作用」と呼ばれる。

有害な関係

数週間後、研究チームは、全てのオタマジャクシについて計測と発生段階の特定を行い、ヨーロッパヒキガエルのオタマジャクシについては毒素の詳細な化学分析を行った。その結果、競争相手の種にかかわらず、一緒に育ったライバルの数が多いほど(つまり密度が高いほど)、ヨーロッパヒキガエルのオタマジャクシの体のサイズは小さくて毒性が強いという、野外研究と同じ結果が得られた。ところが意外なことに、これらのオタマジャクシが産生した毒素の量は、同種個体と一緒に育った方が著しく多かった。一方、ダルマチアアカガエルのオタマジャクシでは、「有害な同居人」がいた場合でも体のサイズなど成長や発生に影響は見られなかった。

トレント大学(カナダ・ピーターバラ)の生態学者Thomas Hossieは、今回の研究を「非常によく計画されたもの」と評価する。オタマジャクシでは、形態や行動など、他の形質の可塑性についてはよく研究されているが、その多くは捕食リスクへの応答を調べたものだとHossieは指摘する。「今回の論文は、両生類の幼生の形質がいかに柔軟であるかを示す、新たな好例です」。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の生態学者Gary Bucciarelliも、「両生類の化学防御の進化と生態学的役割に疑問を投げ掛ける、実に説得力のある研究成果です」と今回の研究を称賛する。Bucciarelliは以前、イモリの毒性が捕食ストレスや環境要因に応答して高まることを示しており6、「こうした知見によって、『動物の化学防御の多様性は捕食のみによって駆動される』という考え方に、鋭い目が向けられるようになりました」と続ける。

Hossieは、個体群密度による毒性の変化は昆虫の世界でも観察されている7とし、「今回の実験は、毒性の可塑性が予想以上に多くの動物に備わっている可能性を示しています」と話す。

Bókonyらの研究はまだ終わっていない。予想に反して、ダルマチアアカガエルへの害が認められなかったことで、「ヨーロッパヒキガエルは、そもそも何から身を守っているのかという疑問が浮かび上がった」からだ。その答えが、共食いである可能性もある。実際、餌が少ない過酷な環境では、多くのオタマジャクシが同種のライバルを食べているのだ。

しかしBókonyは、こうした毒素には全く別の機能があるのではないかと考えている。「混み合った状況で、仲間から伝染病をもらわないための、一種の免疫防御なのかもしれません」とBókonyは思いを巡らす。研究チームは、これからその可能性を探ろうとしている。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Bókony, V., Üveges, B., Móricz, A. M. & Hettyey, A. Funct. Ecol. http://dx.doi.org/10.1111/1365-2435.12994 (2017).
  2. Mithöfer, A. & Maffei, M. E. in Plant Toxins (eds Gopalakrishnakone, P., Carlini, C. R. & Ligabue-Braun, R.) 3–24 (Springer, 2017).
  3. Hettyey, A., Tóth, Z. & Van Buskirk, J. Oikos 123, 1025–1028 (2014).
  4. Daly, J. W. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 9–13 (1995).
  5. Bókony, V. et al. J. Chem. Ecol. 42, 329–338 (2016).
  6. Bucciarelli, G. M., Shaffer, H. B., Green, D. B. & Kats, L. B. Sci. Rep. 7, 8185 (2017).
  7. Despland, E. & Simpson, S. J. Chemoecology 15, 69–75(2005).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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