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宇宙の物質分布の「むら」は意外に小さかった

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171116

原文:Nature (2017-08-10) | doi: 10.1038/nature.2017.22413 | Cosmic map reveals a not-so-lumpy Universe

Davide Castelvecchi

暗黒エネルギーサーベイの観測結果に基づく地図が報告された。予想外の結果だが、宇宙論の標準モデルと矛盾するほどではなかった。

暗黒エネルギーサーベイ(DES)のカメラが撮影した、地球から約6500万光年の彼方にあるNGC 1398銀河。DESは、この銀河をはじめとする2600万個の銀河の位置と形の地図を作った。 | 拡大する

Dark Energy Survey

宇宙の構造を表す、これまでで最大の地図が作られた。宇宙の物質分布の「むら」は、これまで考えられていたほど大きくないらしいことが明らかになった。

この地図は、暗黒エネルギーサーベイ(Dark Energy Survey:DES)という国際共同研究プロジェクトの一環として作成されたもので、質量が光を曲げる「弱い重力レンズ効果」の測定などによって調べられた宇宙の物質分布を表している(Nature ダイジェスト 2012年12月号「重力レンズでダークエネルギーに迫る」参照)。これまで、宇宙の進化のカギとなる物質分布の見積もりには、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(cosmic microwave background:CMB)の測定データに基づく地図が用いられ、これが宇宙論の基準になっていた(Nature ダイジェスト 2013年6月号「初期宇宙の最も高精度な『地図』」参照)。弱い重力レンズ効果の測定によりCMBの地図に近い精度のデータが大量に得られたのは、今回が初めてだ。DESチームを率いるフェルミ国立加速器研究所(米国イリノイ州バタビア)の宇宙論研究者Joshua Friemanは、「ようやく、他のプロジェクトと肩を並べられるようになりました。私たちも、宇宙論に束縛条件を与えられるような成果を上げることができたのです」と言う。

質量分布のむらなどの測定結果については、過去の観測といくらか食い違いがあるものの、実験の誤差の範囲内である。弱い重力レンズ効果研究の先駆者であるカリフォルニア大学デービス校(米国)の宇宙論研究者Anthony Tysonは、今後、DESの地図の範囲がさらに広がれば、この食い違いが現実のものかどうかが明らかになるはずだと指摘する。「彼らは非常に慎重で、控えめに解釈していると思います」。

400人以上の研究者が参加するDESは、セロ・トロロ汎米天文台(チリ)の4mビクター・M・ブランコ望遠鏡を使って、2013年からデータを収集している。現在の地図は測定を始めた年のデータに基づくもので、南天の2600万個の銀河の位置と見かけの形を示している。

アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)の一般相対性理論によれば、質量は空間をゆがませる。地球から他の銀河を見たときに、その手前に大きな質量があれば、空間のゆがみによって銀河から来る光が曲がり、銀河はわずかにつぶれて見える。銀河の手前にある質量が通常の物質であっても、目に見えない暗黒物質(ダークマター)であっても、効果は同じだ。もちろん、実際につぶれた形をしている銀河もあるし、向きによってつぶれて見えるだけの銀河もある。けれども空の特定の領域にある多くの銀河が、平均して同じ方向にゆがんで見えているなら、原因はおそらく重力レンズだ。

DESの宇宙論研究者たちは、代々のCMB観測プロジェクト(最新の観測は欧州宇宙機関(ESA)のプランク衛星を使って行われた)と同様の方法を用いて宇宙の組成を明らかにすることができた。DESチームによる観測結果は、通常の物質が宇宙の全物質のたった4%しか占めていないことを示していたが、これはプランク衛星の観測に基づく見積もりと同じだった。しかし、DESチームの見積もりでは暗黒物質の割合は26%で、プランク衛星チームの29%という見積もりよりもわずかに少なく、残りは宇宙の膨張を加速させる「暗黒エネルギー」ということになる。

さらに興味深いことに、DESが観測した今日の物質分布と、プランク衛星によるCMBの観測結果から予想される物質分布との間には食い違いがあるようだ。今から140億年前の宇宙が誕生したばかりの頃には、通常の物質と暗黒物質は一様に分布していたが、今日の銀河の分布は一様ではない。重力が物質を集合させて銀河団や銀河フィラメントからなる網目状の構造を形成させ、網目の間には巨大なボイド(空洞)が広がっている。DESが測定した物質分布のむらは、宇宙論の標準モデルに基づく予想より7%小さかった。

ギャップへの関心

両者の食い違いは統計的に大きいものではなく、1標準偏差(1σ;約68%)内に収まっている。けれども、DESとは別の重力レンズ観測プロジェクトであるキロ・ディグリー・サーベイ(KiDS)も2016年に、同様の食い違いを発見している(H. Hildebrandt et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. https://doi.org/10.1093/mnras/stw2805; 2016)。

この食い違いの存在が裏付けられれば、宇宙の歴史の中で、質量分布のむらは宇宙論モデルによる予想よりゆっくり形成されていることになる。その場合、暗黒物質と暗黒エネルギーあるいは新しいタイプのニュートリノの間の予想外の相互作用など、新しい物理学が見えてくる可能性がある。2017年8月3日、DESチームはフェルミ国立加速器研究所で開かれた米国物理学会の会合で研究成果を発表し、一度に10編の論文をネット上に投稿した(go.nature.com/2ubhr8l)。

この数十年の宇宙論的観測の結果は、矛盾のない詳細な描像に向かって収束しつつあるが、弱い重力レンズ効果の観測の他にも研究者の頭痛の種になっている観測がある。例えば、宇宙はプランク衛星の観測データに基づく予想よりも速く膨張していることが明らかになっている。ケンブリッジ大学カブリ宇宙論研究所(英国)の所長で、プランク衛星チームとDESチームの両方に参加しているGeorge Efstathiouは、宇宙の物質分布のむらに関する食い違いは、宇宙の膨張に関する食い違いよりも気掛かりな存在になり得ると言う。

とはいえ、研究者たちは基本的に、新しい道具によって宇宙をますます詳細に探れるようになったことを喜んでいる。シカゴ大学(米国イリノイ州)の天文学者Wendy Freedmanは、「こうした測定は、宇宙論モデルを確かめるための素晴らしい試験になっていると思います。今後、その精度と正確さはますます向上していくことでしょう」と語る。

DESの最後の観測は2018年に終了する予定で、全天の8分の1をカバーすることになる。その結果は2020年中に出るはずだとFriemanは言う。DESの最終的な目標は、十分に広い領域の地図を作成して、宇宙の最近の歴史の間に暗黒エネルギーの影響がどのように現れてきたを明らかにすることにある。

「考えただけでワクワクします」とTysonは言う。「弱い重力レンズ効果の未来は明るいと思います」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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