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抗体はドーパミンを介して作られる

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171031

原文:Nature (2017-07-20) | doi: 10.1038/nature23097 | Nervous crosstalk to make antibodies

Hai Qi

T細胞は、B細胞が抗体産生細胞へと分化するのを助ける。これにはドーパミンを使った細胞間のシグナル伝達が必要とされることが報告された。神経伝達物質であるドーパミンは、意外なことに免疫でも役割を持つことが分かった。

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JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

動物が感染から身を守るためには、免疫系のB細胞による抗体の産生が不可欠である。この過程には、T細胞と呼ばれる免疫細胞とB細胞との間の密接な情報伝達と協力が関与している。Ilenia Papaらはこのステップを調べ、神経細胞におけるシグナル伝達で働くある分子が、抗体生成の基礎となる免疫細胞間の相互作用でも役割を果たしていることを発見した。この研究成果はNature 2017年7月20日号318ページで報告された1

免疫系が効率的に感染と戦うためには、B細胞が形質細胞と呼ばれる抗体産生細胞に分化する必要がある。B細胞がこれを行うためには、タンパク質CD4を発現するタイプのT細胞、すなわち濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)からの助けが必要である2,3。B細胞とTFH細胞がある病原体を認識すると、活性化して増殖し、主にリンパ節と脾臓に存在する胚中心と呼ばれる構造に集まる4

胚中心では、同じ病原体に特異的に反応する非常に移動性の高いT細胞とB細胞が、T-B免疫シナプスと呼ばれる動的な特殊化した表面構造を形成することによって直接的に相互作用できるようになる5。この構造を通して、TFH細胞はシグナルを送ってB細胞の分化増殖を促す一方、B細胞からシグナルを受けて自身の機能状態を維持する。これらの免疫シナプスが2つの細胞間のシグナルのやり取りをどのように促進し、また、この相互作用によって、いかにして確実に抗体産生細胞が効率的に生み出されるのかは、これまで分かっていなかった。

Papaの研究チームは、ヒト扁桃腺の試料を用いて調べ、TFH細胞が、神経系ニューロン間の接続を形成するシナプスで役割を持つタンパク質、クロモグラニンBなどの分子を非常に多く発現していることを見いだした。クロモグラニンBはニューロンのシナプス部分に存在する細胞内小胞である大型有芯小胞の構成要素で、大型有芯小胞は神経伝達物質ドーパミンやそれと同類の神経伝達物質を取り込んで蓄積し、輸送する働きを持つ6。著者らは、ドーパミンを検出するために高感度かつ分子量を直接測定できる質量分析法を使用して、ヒトのTFH細胞が豊富にドーパミンを含むことを見いだした。しかし、マウスのTFH細胞や別のタイプのヒトT細胞など、試験した他の細胞ではそうした結果は得られなかった。彼らはまた、ヒトTFH細胞が胚中心のB細胞による刺激でドーパミンを放出することも観察した。さらに、ドーパミンはin vitroにおいて、胚中心B細胞の形質細胞への分化のレベルを引き上げることも分かった。形質細胞への分化は、TFH細胞タンパク質のCD40リガンド(CD40L)とインターロイキン21によって誘導される。

Papaらは、ドーパミンを介する作用をさらに詳しく調べた。すると、胚中心機能に重要な多くの分子の中で、ヒトタンパク質ICOSLが、ドーパミン刺激の後に胚中心のB細胞表面で特異的かつ迅速に増加することが分かった。ICOSLは、TFH細胞の表面に提示されるICOS受容体タンパク質のリガンドである。

マウスの胚中心7,8では、ICOSLはTFH–B細胞のもつれ合い(2つの可動細胞間の一時的な免疫シナプス結合)を促進する。この相互作用の強さは主に接触の持続時間よりもそれに関わった細胞表面の面積に反映される。マウスICOSLがTFH細胞表面でICOSと相互作用すると、蓄えられていたCD40LのTFH細胞表面への放出が促される7。すると次に、CD40LとCD40との相互作用により、マウス胚中心のB細胞でICOSLの発現上昇が誘発される。その結果、TFH細胞とB細胞の間の正のフィードバック・ループが形成され、「親和性に基づく選択」として知られている過程が促進される7ことで、標的に最も強く結合する抗体を産生し得るB細胞が選択される4

Papaらは、マウスICOSLの機能とは対照的に、ヒト胚中心のB細胞には十分な量のICOSLがあらかじめ存在していて、細胞内に蓄えられていることを見いだした(図1)。ヒトのICOSLの発現はCD40L刺激では上昇しなかったが、代わりに、ドーパミン刺激に反応して細胞内に蓄えられていたこのタンパク質が迅速に細胞表面に放出されたのだ。マウスICOSLの作用と類似した作用により、ヒトのICOSLもまた、TFHとB細胞の間の接触面積を増加させて、TFH細胞表面へのCD40Lの放出を促進した。興味深いことに、ヒトICOSLはTFH細胞内のクロモグラニンB小胞の免疫シナプスへの輸送を促して、TFH細胞からのドーパミン放出を促進することが分かった。これは、ヒトのTFH細胞とB細胞の間にも、免疫シナプスを介した正のフィードバック・ループがあることを意味しているが、マウスのものと原理的には類似しているものの、分子的詳細は異なっている。

図1 ドーパミンは抗体を産生する免疫細胞の分化増殖を助ける
Papaらは、ヒトのB細胞と濾胞性ヘルパーT(TFH)細胞間の相互作用を調べた1。この相互作用は抗体を産生する形質細胞の形成につながる。T細胞受容体(TCR)が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によってコードされるタンパク質と結合したペプチド断片(抗原)を認識すると、B細胞とT FH細胞間のシグナル伝達による相互作用が起こる。Papaらは、これらのシグナル伝達相互作用の一部が神経伝達物質分子であるドーパミンによって引き起こされるという予想外の発見をした。ドーパミンはTFH細胞内にある有芯小胞と呼ばれる小胞中に存在している。TFH細胞から放出されたドーパミンは、そのTFH細胞と相互作用しているB細胞によって取り込まれ、その結果、タンパク質ICOSLが小胞を介してB細胞の表面へ輸送される。次に、リガンドであるICOSLがT細胞上のICOS受容体タンパク質に結合する。このリガンド–受容体相互作用は、B細胞の成熟に重要な別の受容体タンパク質(CD40)とリガンド分子(CD40L)の間のシグナル伝達を増加させる。シグナル伝達クロストークのこうした例(赤い矢印)が、B細胞が分化して抗体産生細胞になるのを促すと考えられる。 | 拡大する

以前より、ドーパミンが免疫反応の調節に関係することを示唆する報告はあった9,10が、今回のPapaらの研究でようやく、ヒトの免疫シナプスを介したシグナル伝達でドーパミンが役割を担っているという確証が得られた。ドーパミンの血流中での半減期は1~2分で11、おそらく胚中心組織での細胞外半減期も同様に短いと考えられる。可動性のTFH細胞とB細胞の間で、シグナルが効率的かつ高度の特異性を持って確実に伝達されるためには、こうした特徴が望ましいのかもしれない3。CD4を発現するT細胞の全てのサブグループの中で、TFH細胞はおそらく、適切に自らの機能を果たすために、免疫シナプスでの効率性と特異性に対して最も厳しい必要条件を持っているのだろう。この考えと一致して、ドーパミンはヒトのTFH細胞によって使用されるが、他のサブグループのヒトのT細胞では使われていないということをPapaらは明らかにした。

Papaらが得た研究結果で意外だったのは、マウスのTFH細胞は、B細胞との情報伝達にドーパミンを使用しないらしいということである。マウスでは、CD40Lなど他の免疫シグナル伝達分子は放出され、素早くT細胞から除去され得るのだが、ヒトのTFH細胞が、発達段階でドーパミン生成と蓄積のための装置をどのように獲得するのか、そしてマウスTFH細胞はどんな段階でどのようにしてヒトTFH細胞とは異なる発達をするのかを発見できれば興味深いだろう。B細胞がTFH細胞からのドーパミン放出を誘発する仕組みも興味深い問題だ。しかし、Papaらのこのたびの研究では、まだ、この問題の一部しか解明されていない。

ヒトとマウス両方の系において細胞間の正のフィードバック・ループが存在するということから、胚中心が生産的であるためには系のこうした側面が重要であるといえる3。マウスを使った実験で以前に得られた証拠7から、フィードバック・ループがB細胞での抗体親和性選択の過程を促進することが示唆されている。コンピューターモデル化に基づいてPapaらは、ヒトの系における速いドーパミン–ICOSLフィードバック動態は、形質細胞の形成を加速させるが、親和性選択の過程に影響しないと考えている。この予測は今後の実験で検証できるだろう。

ヒトのB細胞は多くのタイプのGタンパク質共役ドーパミン受容体を発現するが、化学的阻害物質、活性化物質または遮断物質を使用してそれらの特異的役割を正確に突き止めることは、必ずしも簡単ではない。今回のPapaらの研究によって、ドーパミン受容体の機能とB細胞の生物学的性質の調節との関係を系統的に調べるために遺伝学手法を使うというやり方に弾みがつくだろう。また、ドーパミン関連の経路で起こった何らかの変異が免疫系に異常をもたらすかどうかにも、より強い関心を向けるべきである。さらに、疾病の特性や治療法の選択肢がドーパミンの変化に関連している場合、抗体を介する免疫が関与しているかどうかや、抗体を介する免疫への影響についても考慮すべきである。

(翻訳:古川奈々子)

Hai Qiは、青海大学医学系大学院(中国・北京)に所属。

参考文献

  1. Papa, I. et al. Nature 547, 318–323 (2017).
  2. Crotty, S. Annu. Rev. Immunol. 29, 621–663 (2011).
  3. Qi, H. Nature Rev. Immunol. 16, 612–625 (2016).
  4. Victora, G. D. & Nussenzweig, M. C. Annu. Rev. Immunol. 30, 429–457 (2012).
  5. Fooksman, D. R. et al. Annu. Rev. Immunol. 28, 79–105 (2010).
  6. Machado, J. D. et al. Cell. Mol. Neurobiol. 30, 1181–1187 (2010).
  7. Liu, D. et al. Nature 517, 214–218 (2015).
  8. Shulman, Z. et al. Science 345, 1058–1062 (2014).
  9. Sarkar, C., Basu, B., Chakroborty, D., Dasgupta, P. S. & Basu, S. Brain Behav. Immun. 24, 525–528 (2010).
  10. Pinoli, M., Marino, F. & Cosentino, M. J. Neuroimmune Pharmacol. http://dx.doi.org/10.1007/s11481-017-9749-2 (2017).
  11. Bhatt-Mehta, V. & Nahata, M. C. Pharmacotherapy 9, 303–314 (1989).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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