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ティラノサウルス類進化の謎を解く新種か?

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160506

原文:Nature (2016-03-14) | doi: 10.1038/nature.2016.19555 | Horse-sized dinosaur sheds light on T. rex’s origins

Adam Levy

ウズベキスタンで、新種の小型ティラノサウルス類の化石が発見された。その年代と特徴は、ティラノサウルス類が複雑な感覚系を進化させてから急激に巨大化したことを示唆している。

Timurlengia euoticaの復元骨格。赤色は化石が発見されている骨を示す。 | 拡大する

Proceedings of the National Academy of Sciences

ティラノサウルス・レックス(T. rex)に代表される後期白亜紀(8000万~6600万年前)のティラノサウルス類は、これまでに地上を歩いた最大級の肉食動物であり、その巨大さと優れた感覚系によりアジアや北米大陸の生態系において長く最上位捕食者として君臨したことが分かっている。しかし、中期ジュラ紀(約1億7000万年前)に出現したその祖先は、はるかに小型で、概してウマほどの大きさしかなく、後のティラノサウルス類とは対照的に頭が小さくて腕が長く、優れた嗅覚や低周波領域の聴覚もなかった。

後期白亜紀の巨大なティラノサウルス類の化石は数多く存在し、中期ジュラ紀~前期白亜紀(約1億年前)に生息した初期のティラノサウルス類の化石も続々と発見されている。しかし、その中間の中期白亜紀のティラノサウルス類の化石記録については約2000万年もの空白期間があり、ティラノサウルス類がいかにして鋭敏な感覚を持つ巨大肉食恐竜へと進化したのかは長く謎に包まれてきた。

今回、ウズベキスタンのキジルクム砂漠で以前発見されていた化石の断片が、この空白期間のちょうど真ん中に当たる9200万~9000万年前の新種の小型ティラノサウルス類のものであることが明らかになり、Proceedings of the National Academy of Sciences 2016年3月29日号で報告された1。研究を率いたエディンバラ大学(英国)の古生物学者Stephen Brusatteは、「こんな化石を待っていました」と喜ぶ。

耳ざとい恐竜

新種として記載されたこの恐竜は、14世紀、中央アジア一帯に大帝国を築いた征服者ティムール(別名タメルラン)と、その大きな内耳にちなんで、Timurlengia euotica(「耳のいいティムール」の意味)と命名された。オハイオ大学(米国アセンズ)で恐竜の頭部の軟部組織を研究するLawrence Witmerは、この恐竜が「ティラノサウルス類の進化的変遷における主要な段階を捉えている」と話す。

Timurlengiaの標本は1997~2006年に約25個発見されていたが、Brusatteが最も重要な部分である脳函(脳頭蓋)を目にしたのは、2014年のことだった。同じ場所から膨大な数の標本が発掘されたため、処理に長い時間がかかっていたのである。ロシア科学アカデミー動物学研究所(サンクトペテルブルク)に保管されているTimurlengiaの脳函は、この恐竜が体重約170~270kgと小型でありながら、すでにT. rexのように比較的長い管状の脳を有していたことを示唆している。また、体の他の部分と比べたときの頭部のサイズや厚みも、後のティラノサウルス類のものに近い。

脳函のCTスキャンからは、内耳の聴覚をつかさどる器官である「蝸牛管」が、他の獣脚類(ティラノサウルスやヴェロキラプトルなどの肉食恐竜を含む、二足歩行の恐竜の総称)よりも著しく長いことが分かった。これも後の大型ティラノサウルス類に共通した特徴であることから、TimurlengiaT. rexなどのように、低周波領域の聴覚に優れ、遠くから獲物の物音を捉えることができたと考えられる。一方、鼻腔などについては、大型ティラノサウルス類に特徴的な複雑な構造は認められず、嗅覚がどの程度鋭敏であったかについては分からなかった。

Timurlengia euoticaの想像図。 | 拡大する

Todd Marshall

進化の肯定

「今回の発見は、ティラノサウルス類が感覚系に磨きをかけた後で巨大化したことを示唆しています」と語るのは、アイオワ大学(米国アイオワシティー)で恐竜の進化史を研究するChristopher Brochuだ。ティラノサウルス類は、高度な感覚系を獲得したことで、後期ジュラ紀に繁栄した別の大型肉食恐竜アロサウルス(ティラノサウルス類とは別の分類群に属する)の絶滅後、食物連鎖の頂点にまで上り詰めることができたのかもしれない。

Timurlengiaは、年代と解剖学的構造の両方が、進化の過程の空白部分にまるでパズルのピースのようにぴったりはまります。進化の証拠として実に見事な中間体といえるでしょう」とWitmerは語る。

だが、この新発見は、2000万年という果てしなく長い空白期間における、たった1つのデータポイントにすぎない。それに、Timurlengiaは、当時のティラノサウルス類からすると「例外」であった可能性もある。

実際、ティラノサウルス類は形態もサイズも著しく多様な分類群で、小型の種が大部分を占めていた1億年前にも、吻部の長いXiongguanlong baimoensisや全長9mに及ぶYutyrannus hualiなど、大型のティラノサウルス類は存在した。しかしこれらは、後期白亜紀に繁栄した巨大なティラノサウルス類の祖先ではない。Brusatteはこうした太古の大型種を「奇妙な枝分かれ」と呼ぶ。

「今後の新たな発見で、今回の研究結果のいくつかが覆されることもあるでしょう。でも私は、そうなってほしいと願っています。それは中期白亜紀の化石が質・量ともに充実するということですから」とBrusatteは語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. 1 Brusatte, S. L. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1600140113 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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