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重力波を初めて直接検出

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160402

原文:Nature (2016-02-18) | doi: 10.1038/530261a | LIGO’s path to victory

Davide Castelvecchi

重力波は、時空の歪みが波として伝わる現象だ。この重力波を直接検出することに、米国を中心とする国際的な観測計画が初めて成功した。2つのブラックホールの合体で生じたとみられる重力波を捉えた。アインシュタインの予言が100年を経て確かめられ、天文学は重力波を通して宇宙を見る新たな時代に入った。

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Caltech/MIT/LIGO Lab

2016年2月11日。米国ワシントン州と同ルイジアナ州にある2基の重力波観測装置「LIGO(ライゴ)」(レーザー干渉計重力波観測所)での観測計画に参加する研究者たちは、重力波を初めて検出したことを発表した。

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「ついにやりました!」。ワシントンD.C.で開かれた記者会見で、LIGO研究所の所長であるDavid Reitzeはそう話し、小さくガッツポーズをした。LIGOに参加する研究者たちで作る組織「LIGO科学コラボレーション」(LSC)の分析によると、捉えた重力波は、地球から4億パーセク(13億光年)のところで、2つのブラックホールが合体して1つのブラックホールになった際に放射されたものだった。ブラックホールの合体が観測されたのも初めてだ。物理学者アルベルト・アインシュタインが、自身が作った一般相対性理論の帰結として重力波を1916年に予言してから100年がたっていた。

重力波は、時空の歪み(重力場)が伝わる波で、質量のある物体が加速度運動をすると生じる。極めて弱いため、ブラックホールや中性子星の合体など、大質量の物体の激しい運動による重力波でなければ検出は難しい。重力波の存在は、連星パルサーの軌道周期の変化から間接的に確かめられていたが、直接検出されたのは初めてだ(「重力波の検出方法」を参照)。重力波の直接検出は、ノーベル賞受賞が期待されるだけでなく、重力波天文学という新たな分野を開く。天文学者たちは、透過力の高い重力波を通して宇宙をさらに深く知ろうとしている。

重力波を初めて見た男

2015年9月14日午前11時53分(現地時間)。ドイツ北部のハノーファーにあるマックス・プランク重力物理学研究所。ポスドクである若手研究者Marco Dragoの受信箱に自動送信された電子メールが届いた。メールには2つのグラフへのリンクがあり、グラフは鳥の鳴き声のような波形の波を示していた。鳴き声は雑音の中から急に現れ、突然終わっていた。

それは、LIGOの2基の検出器で3分前に得られた2つの観測データのグラフで、どちらもブラックホールの合体で生じると予測された重力波の波形によく似ていた。しかし、その波は本物とは思えないほど強かった。

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Caltech/MIT/LIGO Lab

Dragoは、重力波観測データの自動分析プログラムの開発に取り組んできた。「ともかく、それが何か特別なものであることは明らかでした」と彼は話す。研究者たちは、検出器をテストするために観測装置に人工的に信号を「注入」することがある。「私は、同僚のポスドクのAndrew Lundgrenの部屋に行き、注入について何か知っているか聞きました」とDragoは話す。

Lungdrenはすぐに記録データをチェックし、検出器テストの形跡がないことを確かめた。Dragoは、LSCの世界中に散らばる1000人の研究者たちに、これをどう思うか尋ねる電子メールを送った。

同研究所の物理学者Bruce Allenは、DragoとLundgrenの上司だ。「グラフを初めて見たとき、『ああ、これは注入だよ、明らかに』と私は言いました」とAllenは話す。彼は会議中で、昼休みが終わるまでそれ以上調べることはなかった。

数時間以内に、大西洋の反対側の米国の研究者たちがDragoの電子メールに気付いた。その中に、LIGO開発の中心人物である、マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)の実験物理学者Rainer Weissもいた。「波形を調べ始めるとすぐ、これはすごいものが捉えられたと思いました」と彼は話す。

本当に検出したと考えるにはタイミングがよすぎるように思えた。LIGOは5年間の改良を終え、「改良型LIGO」として新たな観測を始めた直後だった(「LIGOが観測可能な範囲」を参照)。また、LSCのごく少数の幹部メンバーは、偽物の信号を観測装置に注入することができた。研究チームの反応を試すためで、信号が偽物であることは外部への公表の直前まで伏せられる。

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CLUSTER MAP ADAPTED FROM ANDREW Z. COLVIN/CC-BY-SA

たくさんの電話と電子メールが行き交う長い1日の末、LIGOの広報担当者であるルイジアナ州立大学(米国同州バトンルージュ)の物理学者Gabriela Gonzalezは、目隠しテスト注入は行われていないと結論し、LSC全体にそれを連絡した。

カリフォルニア工科大学(同州パサデナ)の理論物理学者Kip Thorneはかつて、同大学の実験物理学者Ronald DreverとWeissと共にLIGO計画をスタートさせた。ThorneはGonzalezの結論を聞き、1960年代に重力波検出の可能性について考え始めて以来の夢がついに現実になったことを悟った。しかし、まだシャンパンの栓を抜く時ではなかった。世界にこの発見を発表する前に、研究チームにはやるべきことがある。「その夜、私は自宅で自分自身に微笑みかけ、1人で快挙を祝いました。妻にもまだ話すことはできなかったからです」とThorneは振り返る。

確認と分析

Gonzalezらは、本格的な分析を始める前にもう1カ月、データを収集することを決めた。検出器に現れる自然な雑音のデータを集める必要があった。その結果、雑音によって今回のような大振幅の波形が生じ、しかも2カ所の検出器でほぼ同時に極めて似たパターンが観測される可能性は非常に低く、偶然とすれば20万3000年に1度よりも少ないはずだと彼らは結論した。

ブラックホールはその質量で周りの空間と時間を歪める。2つのブラックホールは互いの周囲を回っているので、その歪みは時間的に変動する。この変動は、重力波として空間を引き延ばしたり、縮めたりしながら光速で伝播し、地球に届いた。

LIGOは一種の干渉計だ。長さ4kmの真空の管2本が設置され、管の両端に鏡があり、レーザービームを鏡の間で往復させて鏡の間隔の変化を検出する。重力波の効果は小さく、鏡の間隔の変化は1000兆分の1mmほどだった。ルイジアナ州リビングストンの検出器が最初にこの波を検出し、約3000km離れたワシントン州ハンフォードの検出器がその7ミリ秒後に捉えた。この時間差は、重力波が地球をどのように通過したかを示している。

観測データはアインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論の予言ときれいに合致した。重力波の高い周波数から、2つの天体は接触しないまま接近して高速で公転するほど小さかったことが分かり、ブラックホールしかありえないと結論された。波形の分析から、1つのブラックホールの質量は太陽の36倍で、もう一方は太陽の29倍と推定された。2つのブラックホールは、太陽質量の3倍に相当する莫大なエネルギーを重力波として放出したとみられる。

2つのブラックホールは数百万年にわたって互いの周りを回っていたはずだ。しかし、LIGOが重力波を検出し始めたのは、重力波が1秒間に35回振動する周波数(35ヘルツ)に達してからだ。周波数が250ヘルツまで高まった後、波は無秩序になり、急速に減衰した。この過程は、合体間際の高速の公転と合体過程を示しており、0.2秒ほどの間に起こった。

研究チームはPhysical Review Letters誌に論文を投稿し、2016年2月11日に掲載された(B. P. Abbott et al. Phys. Rev. Lett. 116, 061102; 2016)。ケンブリッジ大学(英国)の物理学者スティーブン・ホーキングは、「この驚くべき観測は、重力波を予測したアインシュタインの一般相対性理論を含め、たくさんの理論的研究が正しかったことを裏付けるものです」と話す。

アインシュタインは、一般相対性理論が予言するブラックホールが実際に存在するとは考えていなかった。しかし、天文学者たちは、ブラックホールの周辺を観測することで、それが存在することを示す説得力のある証拠を積み重ねてきた。フランス高等科学研究所(IHES、パリ郊外)の理論物理学者で、重力理論を研究しているThibault Damourは、「LIGOが捉えた信号は、ブラックホールが実在することを初めて真に直接的に示す証拠です」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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