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探査機「あかつき」が金星周回軌道へ

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160310

原文:Nature (2015-12-10) | doi: 10.1038/528174a | Japan’s Venus probe enters orbit

Alexandra Witze

2010年に金星周回軌道への投入に失敗して太陽を周回していた日本の金星探査機「あかつき」が、ついに金星周回軌道に入った。

「あかつき」は金星周回軌道への投入に失敗してから5年間、太陽を周回していた。 | 拡大する

AKIHIRO IKESHITA/JAXA

2015年12月7日の日本時間午前8時51分、「あかつき」は4基の小さなスラスターを約20分間噴射した。スラスターが生み出す推進力はわずかなものだが、探査機を金星の重力圏内に押し出すには十分だった。

「周回軌道に入ったのです! みんな大喜びです」と話すのは、このミッションの参加科学者であるウィスコンシン大学マディソン校(米国)の惑星研究者Sanjay Limayeだ。ミッションサイエンティストたちはこの時点で、少なくとも名誉を一部回復することができたと確信した。

「あかつき」は、2010年に軌道投入に失敗して以来、らせんを描いて太陽を周回していた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所(ISAS;神奈川県相模原市)の中村正人プロジェクトマネジャーはこう言う。「本当に長い間待っていました」。

「あかつき」は、絶えず変化する金星の大気を観測する目的で、2010年5月に打ち上げられた。金星の大気は秒速100m近い猛スピードで回転していて、その下にある金星表面の自転速度よりもはるかに速い。酸性の雲を貫く雷放電の有無など金星の大気のさまざまな特徴を調べるために、「あかつき」には赤外線カメラから紫外線カメラまで5種類のカメラが搭載されている。

2010年12月7日までは、全てがうまくいっているように思われた。けれどもこの日、軌道制御用の主エンジンを噴射して金星周回軌道に入ろうとした「あかつき」にトラブルが発生した。運用管制室が気付かないうちに、ヘリウムガスのタンクと燃料タンクの間にある逆流防止用バルブに塩が蓄積して詰まり、異常燃焼が起きて、推進システムのセラミック製のノズルが破損してしまったのだ。その結果、「あかつき」は金星よりやや内側の軌道で太陽の周りを公転し始めた。

JAXAの技術者たちは、何とかミッションを継続できないかと、数年がかりで検討した(M. Nakamura et al. Acta Astronaut 93, 384-389; 2014)。燃料と酸化剤を混合して燃焼させる主エンジンは破損し、残った姿勢制御用スラスターは燃料しか使わないため、運用管制室は、2011年10月に65kgの酸化剤を宇宙空間に投棄した。これにより「あかつき」が軽く、操作しやすくなった結果、より小さい推進力で金星周回軌道に投入できるようになった。

金星周回軌道への投入の際には、「あかつき」の8基のスラスターのうち4基を噴射させた。これらの小型エンジンは、通常は探査機の軌道を大きく変更するためには使われず、探査機の向きを微調整するのに用いられる。スラスターは主エンジンに比べて出力が小さいため、軌道制御に使うためには普段より長く燃焼させる必要がある。

バトンタッチ

「あかつき」の救出は成功したが、5年間の予期せぬ回り道によって、さらなる問題に見舞われる可能性がある。太陽に近い所を当初の計画よりも長く飛行し、予定にない高温にさらされたため、一部の装置が損傷した恐れがあり、これにより金星でのオペレーションが制限される可能性があるのだ。

ただ、深宇宙での5年間、「あかつき」は何もしていなかったわけではない。太陽のコロナの反対側から地球に向けて信号を送り、太陽の乱流が電波をどのように散乱するかを測定するなどの科学活動を行っていた(T. Imamura et al. Astrophys. J. 788,117;2014)。「とはいえ、私たちには辛い5年間でした」と、チームメンバーの今村剛プロジェクト・サイエンティストは言う。

金星を近くから観測できる探査機は、今後しばらくは「あかつき」しかない。欧州宇宙機関(ESA)の金星探査機ビーナス・エクスプレスは、2006年から8年にわたり金星を周回して観測を行った後、2014年12月に運用を終了している。ビーナス・エクスプレスのプロジェクト・サイエンティストHakan Svedhemは、「『あかつき』がもたらす新たな観測データは、ビーナス・エクスプレスの観測データを拡張すると同時に補足するものです。2つのミッションがもたらす科学的成果は、それぞれのミッションの成果の和よりも大きくなるでしょう」と言う。NASAは現在、次のディスカバリー計画(少ない予算と短い開発期間で実施する小規模な太陽系内探査)の候補を5つまで絞り込んでいて、その中に金星に関するミッションが2つ入っているが、どちらも打ち上げは2020年以降になるはずだ。

宇宙空間でトラブルに見舞われた探査機をJAXAが救出するのは、これが初めてではない。2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は、致命的と思われた事故をいくつも乗り越え、2010年に小惑星イトカワのサンプルを地球に持ち帰ったことは記憶に新しい。けれども、1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」では、2003年に火星周回軌道への投入を断念している。

深宇宙での軌道投入に失敗した探査機で再投入に成功した事例は、これまで、NASAの探査機NEAR(Near Earth Asteroid Rendezvou;地球近傍小惑星接近計画、後にNEARシューメーカーと改名)の一例しかない。1996年に打ち上げられたNEARの軌道は1998年に変更され、2000年に小惑星エロスの周回軌道に入った。

JAXAの2015年12月9日の発表によると、「あかつき」の現在の軌道は近金点高度が約400km、遠金点高度が約44万kmの楕円軌道で、金星周回周期は約13日14時間である。今後、徐々に軌道を小さくしていき、金星を9日程度で周回する楕円軌道に移行してから、2016年4月頃に定常観測に入るという。搭載された6種類の観測機器は、3つが良好に動作することがすでに確認されていて、残りの3つについても今後数カ月かけて確認していくという。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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