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レーザー兵器が現実に

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150826

原文:Nature (2015-05-28) | doi: 10.1038/521408a | Laser weapons get real

Andy Extance

長年SFに欠かすことのできない小道具だったレーザー兵器が、ついに現実の戦場に近づいてきた。それを可能にしたのは光ファイバーだ。

米国ニューメキシコ州。乾いた大地の上空をすべるように飛行していたドローンが、突然コントロールを失って、きりもみ状態で落下していく。

ボーイング社のファイバーレーザー兵器HEL MDは、ドローンを撃ち落とすことができる。 | 拡大する

BOEING

続いて、発射された迫撃砲弾が、空中で高く弧を描いてから的に向かって降下し始めるが、これも突然燃え上がり、爆発する。

砂漠に停められた砂色の大型トラックの上では、立方体の装置が素早く回転し、目に見えない赤外線ビームを発射して、標的を1つ1つ破壊していく。高エネルギーレーザー移動式実証機(High Energy Laser Mobile Demonstrator;HEL MD)と呼ばれるこの装置は、航空宇宙産業界の巨大企業ボーイング社(米国イリノイ州シカゴ)が米国陸軍のために開発したレーザー兵器の試作機である。トラック内では、同社の電子物理工学者Stephanie Blountがノートパソコンのスクリーンに現れる標的を凝視し、手に持ったゲーム用コントローラーを使ってレーザーを誘導している。「かなりゲーム的な感覚です」と彼女は言う。

それはそうだろう。レーザー兵器は現代のテレビゲームに欠かすことのできない小道具だ。それにSFの世界では、1960年に最初のレーザー発振が実現する何十年も前から、各種の光線銃が普通に登場していた。けれども、レーザー兵器はもはや空想の産物ではない。近年、米国と欧州ではレーザー兵器がいくつも開発されている。ボーイング社のHEL MDは、数あるレーザー兵器の中の1つにすぎない。レーザー兵器が実現した主な理由は、光ファイバーを使ったファイバーレーザーの登場にある。ファイバーレーザーは従来のレーザーに比べて安価なだけでなく、移動可能で、頑丈なのだ。また、安定したレーザー光線を発生させられるようになった。

今日のファイバーレーザー兵器の出力はキロワット(kW)級だ。これは、冷戦時代に「スターウォーズ計画」と呼ばれた米国の戦略防衛構想(SDI)で目標とされていた「核弾頭を搭載した弾道ミサイルを迎撃できる」メガワット級のレーザーに比べると桁違いに小さい。

SDI計画のレーザー兵器は実現せずに終わったが、現代の控えめなレーザー兵器は、現実に配備されようとしている。ボーイング社が行ったようなさまざまな試験からは、従来の防衛システムよりも格段に少ない費用でテロリスト集団の脅威に対抗できることが示されている。「小型の迫撃砲や下水管を加工して作ったロケット弾のような安価な武器に対抗するための兵器として、極めて費用対効果が高いのです」とBlountは言う。

米国海軍は2014年末に、実験的な艦載レーザー兵器システム(Laser Weapon System;LaWS)を使ってテロリストや海賊が使う形状の小型ボートを攻撃できることを証明し、現在ペルシャ湾に配備されている輸送揚陸艦USSポンスにこれを搭載した。

開発者によると、レーザー兵器を実戦で配備するためには、出力の低さから霧や雲の中での扱いにくさまで、多くの問題を克服しなければならないという。それでも安全保障の専門家たちは、レーザー兵器の可能性を真剣に考え始めている。新米国安全保障センター(Center for a New American Security;CNAS)の先端技術の専門家Paul Scharreは、2015年4月に発表したレーザー兵器に関する報告書で、「半世紀近い研究の末に、米軍はついに実戦に使える指向性エネルギー兵器を配備しようとしている」と記している1

期待から失望へ、そして復活へ

レーザー兵器は昔から兵器開発者を魅了してきたが、SDI計画が進められていた1980年代から1990年代にかけては特に熱心に研究されていた。米国がレーザー兵器研究に支出した金額がピークに達したのは1989年のことで、CNASの報告書1によると、政府はこの年、2014年の貨幣価値にして24億ドル(約2400億円)に相当する金額を研究に支出したという。レーザー兵器研究への資金提供は、当時に比べると少なくなったが、いまだに続けられている。しかし、飛んでくる弾道ミサイルを撃墜するという当初の目標を達成するのは不可能であることが確定している。

レーザー兵器のポイントは、エネルギーを小さな1点に集中させることで、標的を高温にして無力化することにある。また、戦場で使用するためには、小型で移動可能な装置でなければならない。これは口で言うほど容易ではない。例えば米国空軍は、弾道ミサイル防衛システムの一環として1996年に空中発射レーザー(Airborne Laser;ABL)計画に着手した。当時は、弾道ミサイルを無力化させるために必要なメガワット級の高出力レーザーを電気的に励起させることができなかったため、化学反応によって励起できる酸素ヨウ素化学レーザー(chemical oxygen iodine laser;COIL)を利用することにした。けれどもCOILは非常に大きいためにボーイング747型機でしか輸送できず、レーザー用の化学燃料を積み込む余地がほとんどなかった。ABL計画のビーム制御技術を提供したロッキード・マーチン宇宙システム社の指向性エネルギーシステム部門長Paul Shattuckは、「COILには遠隔混合ユニットと数万kgの重さの化学薬品が必要でした」と言う。

米国海軍研究所(ワシントンD.C.)の指向性エネルギー物理学部門の上級科学者Phillip Sprangleによると、もう1つの大きな問題は大気だったという。レーザー光線は塵や自然の乱流に散乱されるだけでなく、大気中を通過することにより「熱ブルーミング(thermal blooming)」も引き起こす。強力なレーザー光線が大気中を伝播すると、空気はレーザー光線を吸収して高温になり、レーザー光線が拡散してしまう。そうなると、レーザー光線のエネルギーは散逸してしまうのだ。

ABL計画にとって幸いなのは、この問題が、天文学者が明瞭な星像を得るのに用いる手法に似た補償光学技術によって解決できる(Nature 517, 430–432; 2015参照)ことだ。こうした補償光学技術では、鏡を使って乱流の影響を打ち消すようにレーザー光線を自動的に歪ませることで、眼鏡をかけて目の収差を修正するのと同じ効果を得る。「レーザー光線が大気中を通過する際に大気をきれいに整えて、首尾よく標的に到達できるようにするのです」とShattuckは言う。

補償光学技術が進歩したことで、2010年には、米国の空中発射レーザーは飛んでいる弾道ミサイルを破壊できるようになった。けれどもその頃には、米国防総省は大きさなどに伴う輸送上の問題によりCOILを使うタイプの兵器への情熱を失い、2012年初頭にABL計画を中止してしまった。同省の高エネルギーレーザー全般への支出も減らされ、2007年には9億6100万ドル(約960億円)だったのが、2014年には3億4400万ドル(約340億円)になってしまった。

注目のファイバーレーザー

ただし研究資金は消えてなくなったわけではない。より経済的に結果を出せるファイバーレーザーへと注目が移ったのだ。1963年に発明されたファイバーレーザーは、1990年代以降、IPGフォトニクス社(米国マサチューセッツ州オックスフォード)ほぼ一社の努力によって進歩してきた。棒状や板状や円盤状の固い結晶を使ってレーザー光線を発生させる他のタイプの固体レーザーがかなりの大きさになるのに対し、ファイバーレーザーで使う細い光ファイバーは、コイル状に小さくまとめることができる(「ファイバーレーザー」参照)。光ファイバーは、DVDプレーヤーに用いられる安価なレーザーダイオードをもっと明るくしたものから光学エネルギーを集め、その光を増幅して高い出力を得ることができ、電気光変換効率は30%以上になる。この効率は、他のタイプの典型的な固体レーザーの2倍以上で、COILなどの化学レーザーに近い。また、光ファイバーは細くて長いため、体積に対する表面積の比率が大きく、廃熱を素早く放出することができる。これにより、レーザーの寿命が延び、管理の負担も軽減できる。

1990年代には、ファイバーレーザーのこうした長所にまず注目が集まり、インターネットのデータを担って海底ケーブル中を進む光信号の増幅に利用されるようになった。IPGフォトニクス社は2000年代初頭から溶接・穿孔・切断などに用いるkW級の産業用レーザーの開発に力を入れるようになり、こうした装置が軍事研究者からも注目された。

2010年頃、ロッキード社のShattuckのチームはイスラエル市民の声を耳にした。「ガザ地区から発射されるロケット弾の標的にされている村の村長が、『身を守るための道具が欲しい』と言っていたのです」。この声をヒントに同社が開発したのが、ADAM(Area Defense Anti-Munitions)システムだった。ADAMは、IPG社の既製品の10kWのレーザーを利用することで、価格を低く抑えている。ロッキード社は2012年以降、ボートや、ドローン、約1.5km離れた場所から発射された模擬小口径ロケット弾などの標的を、ADAMを使って無力化できることを示している。同社はADAMの価格や購入者の有無は明らかにしていないが、このシステムを顧客に提供する準備はできているという。

ボーイング社のBlountは、Shattuckよりも口が固い。同社が開発したHEL MDの試作機も既製品の10kWファイバーレーザーを利用している。HEL MDのシステムは自動車のエンジンや別の発電機から電力供給を受けるため、「カップ2杯以下の燃料で、多くの標的を無力化するのに十分な時間、レーザーを照射できます」と彼女は言う。そのため、HEL MDによる防衛は、従来型のミサイルと比べると格段に安上がりだ。ボーイング社の指向性エネルギーシステム部門長のDavid DeYoungは、「ミサイルは安いものでも10万ドル(約1000万円)はしますし、1回発射すればそれで終わりです。レーザー兵器システムなら一発10ドル(約1000円)もかかりません」と言う。

Blountによると、レーザー兵器研究が勢いを取り戻したのは、レーザーそのものだけでなく、画像認識システムと照準システムが進歩したことが大きいという。「照準システムと追跡システムが改良されれば、レーザー光線を標的の最も弱い点にうまく照射できるようになるからです」。

照準のコンピューター化により、HEL MDは完全な自律モードで動作できるようになっている。ボーイング社は2014年5月にこの点を実証できたが、その際に、想定外の問題も浮き彫りになった。HEL MDが発射するレーザー光線は音がせず、目にも見えない上、無力化されても爆発しない標的もあるため、オペレーターが気付かないうちに自動戦闘が終わってしまっている可能性があることが明らかになったのだ。「戦闘は直ちに始まるので、常時スクリーンを睨んでいないと見落としてしまうかもしれないのです」とBlountは言う。「この問題に対処するため、レーザーを発射したときに音が出るようにしています。『スタートレック』や『スター・ウォーズ』の音をたくさん使おうと計画しています」。

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結合でパワーアップ

今日のレーザー兵器は、標的に照準を合わせることについては戦闘に使えるレベルにきているかもしれないが、出力の点で問題がある。市販のレーザーの10kWという出力は、レーザー兵器として役立つ下限の数値だ。さらに、光ファイバーを使うと、レーザー光線の出力と品質が制限される。高出力になると、光ファイバーの中を大量の光子が通るためにエネルギーの放出が加熱に追いつかなくなり、光ファイバーが損傷してしまうのだ。この現象を回避するため、研究者たちは複数のレーザーの出力を結合することに取り組んでいる。

理想的な結合は、それぞれのレーザー光線の波が緊密に同調した形で進む「コヒーレント結合」だ。米国の安全保障研究機関であるマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所(レキシントン)のレーザー科学者Tso Yee Fanによると、この手法は電波やマイクロ波の応用分野では広く用いられているという。けれども、コヒーレンスを可視光や赤外線で達成するのははるかに困難だ。それぞれのレーザー光線の波長をほぼ同じにし、その発振面を正確にそろえ、個々の波の山と谷も一致させなければならないからだ。「無線周波数の電波やマイクロ波の波長は数cmです。これに対して、光学の世界の波長は1μm前後であるため、制御が非常に難しいのです」とFanは言う。

けれどもSprangleは、レーザー兵器に関しては、コヒーレント結合はあまり問題にならないかもしれないと言う。2006年、彼の研究チームが行ったコンピューター・シミュレーションにより、複数のファイバーレーザー光線の「インコヒーレント結合」を1点に照射すると、コヒーレント結合とほとんど変わらないパワーが得られることが示されたのだ2。彼によると、どちらの手法でも「大気の乱流中を長距離にわたって伝播するときには、標的に届くパワーはほぼ同じ」という。彼らは2009年に、鏡を使って4本のファイバーレーザー光線を結合して、3km以上も離れた標的上で直径5cmの点にし、この理論が正しいことを実証した3

米国海軍研究所は、Sprangleの研究に基づき、市販のファイバーレーザー6台をインコヒーレント結合した30kWのLaWSを開発した。LaWSは2014年9月からUSSポンスに配備され、小型のボートやドローンを標的にした試験が行われている。

ミサイル製造企業のMBDAドイツ社(シュローベンハウゼン)も同様の手法を採用している4。彼らは2012年10月に、自社の40kW結合ファイバービームシステムを使って、約2km離れた空中にある模擬砲弾を破壊することに成功した。同社の試験により、「レーザー兵器による攻撃は反射率の高い装甲で防ぐことができる」というSFのアイデアの誤りも証明することになった。鏡のように反射率の高い表面にわずかでも塵が付着していると、そこから高温になるため、反射率の低い表面よりも早く破壊されてしまうのだ。

MBDAドイツ社の未来システム部門長Markus Martinstetterは、高精度レーザー兵器は従来型の爆発物に比べて標的を撃ち落とす際に無関係の人を傷つける恐れが非常に小さいと主張する。「弾薬の破片を振りまく危険がないため、標的に照準が合ったら、何も考えずに照射を始めてよいのです」。

一方、ロッキード社は、低コストのADAMシステムが標的とするものより複雑であっても遠方であっても攻撃できるレーザー兵器も開発している。2015年の3月には、自社のATHENA(Advanced Test High Energy Asset)システムを使って、試験台に固定した小型トラックの動いているエンジンを無力化することに成功したと報告している。ATHENAでは、空中発射レーザーと同様の補償光学システムを、自社のALADIN(Accelerated Laser Demonstration Initiative)のファイバーレーザーシステムと組み合わせて使っている。

ALADINでは、わずかに異なる波長を持つ複数のファイバーレーザーの出力を結合して30kWのレーザー光線を1本作っている。この「波長ビーム結合」の手法はリンカーン研究所が始めたもので5、インターネットのトラフィックを光ファイバーケーブルに送る方法に似ている。Fanは、この手法はコヒーレント結合より簡単で、インコヒーレント結合より高品質のビームを作れるため、遠方の小さな標的を攻撃しやすくなると言う。

CNASの客員研究員で、レーザー兵器に関する報告書1の筆頭著者であるJason Ellisは、近年の進歩はファイバーレーザー兵器が成熟に近づいていることを確信させるもので、今後、その出力は数百kW級になり、到達範囲も数百kmに広がるだろうと主張する。

これだけの進歩があったにもかかわらず、2014年2月に米国の安全保障の専門家を対象に行われた調査6では、指向性エネルギー兵器技術が10年以内に成熟すると考えている人は全体の20%しかいないことが明らかになった。

ローレンスリバモア国立研究所(米国カリフォルニア州リバモア)の光子科学プログラムマネジャーであるMichael Carterは、今日のレーザーはSFに登場するレーザーとは全くの別物なのだと言う。「スタートレックの『フェイザー銃』のようなものではないのです。人々は光速の戦闘について語りますが、今はまだ、標的を無力化するにはある程度の時間が必要です。また、そもそも、強い雨や濃い霧などにより見えない標的をレーザーで攻撃することはできないのです」。彼は、今の世代の実証システムの価値は、より良いレーザーが登場する前に幅広い問題に対処する方法について検討できる点にあるのかもしれないと考えている。「USSポンスで行われていることが新たな戦略的優位性につながるなどと勘違いしてはいけません。戦略的優位性への第一歩にはなるかもしれませんが、単独で切り札になることはないでしょう」。

軍需企業も、自社の研究開発について語る際には誇張しないように気を付けている。例えばMBDAドイツ社は、出力が数十kWのシステムでも、本当に使えるものを作るには3~5年はかかるだろうと予想している。また、今後レーザー兵器が普及しても、霧の深い日などには従来型の兵器の方が有効だろう。DeYoungも、「未来の顧客には両方の兵器を提供し、どちらで身を守るかは自分で選んでもらうことになるでしょう」と言う。

Scharreは、ファイバーレーザー兵器の能力は大したものではないが、5~10年後には米軍の防衛のどこかに組み込まれているだろうと主張する。「スターウォーズ計画のような壮大さも戦略性もありませんが、人々の命を救い、米軍基地や艦船や軍人を守ることはできるからです」。

(翻訳:三枝小夜子)

Andy Extanceは、英国エクセター在住のフリーランス・ライター。

参考文献

  1. Ellis, J. D. Directed-Energy Weapons: Promise and Prospects (CNAS, 2015); available at http://go.nature.com/eipivo
  2. Sprangle, P., Penano, J. & Hafzi, B. J. Directed Energy 2, 71–95 (2006).
  3. Sprangle, P., Ting, A., Penano, J., Fischer, R. & Hafizi, B. IEEE J. Quantum Elect. 45, 138–148 (2009).
  4. Mohring, B. et al. Proc. SPIE 8733, 873304(2013).
  5. Daneu, V. et al. Opt. Lett. 25, 405–407 (2000).
  6. FitzGerald, B. & Sayler, K. Creative Disruption: Technology, Strategy and the Future of the Global Defense Industry (CNAS, 2014); available at http://go.nature.com/7iwlaq

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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