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4万5000年前の現生人類のゲノム配列が明らかに

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150107

原文:Nature (2014-10-23) | doi: 10.1038/514413a | Oldest-known human genome sequenced

Ewen Callaway

ホモ・サピエンスのDNAとしてこれまでで最も古いものが得られた。保存状態が非常に良かったため、詳細なゲノム配列解読に成功した。

Bence Viola, MPI EVA

シベリアで発見された4万5000年前の脚の骨は、かつてアジア北部に広がったと考えられる謎の現生人類集団に属する狩猟採集民の男性のものと分かった。そのDNA配列から、アフリカを出て欧州、アジア、さらにその先へと向かった現生人類の足取りとともに、ネアンデルタール人との性的遭遇に関する興味深い手掛かりが得られた。

マンモスの牙から宝飾品を彫り上げる芸術家Nikolai Peristovは、2008年、シベリアのウスチイシムにあるイルティシ川で象牙を探しているときに、土手から突き出ている骨を見つけた。警察の科学捜査官に鑑定してもらったところ、おそらく人間のものという結果が返ってきた。

その骨はヒトの左大腿骨と判明し、最終的にはマックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプチヒ)まで送られて、炭素年代測定法で調べられた。研究の中心人物の1人である古人類学者Bence Violaは、「かなり化石化が進んでいたため、古いものだろうと期待していました。大当たりでしたよ。これまでに年代が測定されたどの現生人類の骨よりも古かったのです」と振り返る。幸運はさらに続いた。この骨にはDNAが良い状態で残っていることをViolaの共同研究者が発見し、現代のヒトゲノムで実現されているのと同じ精度でゲノム配列を明らかにすることができたのである1

研究チームは、Peristovがその骨を発見した地域にちなんで、骨の主を「ウスチイシム人」と名付けた。ウスチイシム人が生きていた年代は4万7000~4万3000年前であることが分かった。その古さは、同じくシベリアで見つかりこれまでゲノム解析された最古の現生人類とされていた約2万4000年前の男児をほぼ2倍さかのぼったことになる。

DNAは、その骨を他の人類と結び付ける唯一の手掛かりと考えられる。Violaは、「この男性は出身地が分かりません。結び付けることができる遺跡が存在しないのです」と話し、その集団が長距離を移動し、移動範囲は広域にわたったことを示唆する。

Violaはこのウスチイシム人について、5万年以上前にアフリカを離れて別の地域に移住した後に消滅した人類に近い集団の子孫であり、彼が属した集団もすでに滅亡しているようだと推測する。

ウスチイシム人のDNAから得られた起源に関する情報で最も興味深いのは、ゲノムの約2%がネアンデルタール人に由来しており、その比率は、現在の非アフリカ人全てのゲノムに含まれるのとほぼ同じレベルであることだ。現在の非アフリカ人がそれを獲得したのは、欧州人とアジア人の共通祖先がアフリカを離れて中東でネアンデルタール人と遭遇した後だったことがこれまでの研究から示唆されているが、ウスチイシム人がネアンデルタール人のDNAを得たのも、同じ交雑の結果と考えられるのである。ただし、その交雑の時期は確定されておらず、8万6000〜3万7000年前とされていた。

ウスチイシム人のゲノムには長いネアンデルタールDNA断片が含まれていた。研究チームは、変異率をもとにウスチイシム人とネアンデルタール人の交雑時期を計算し、彼が生きていた時期の1万3000~7000年前にそれが起こったという結果を得た。その結果から、現生人類とネアンデルタール人の交雑時期が6万~5万年前であると見積もった。

自然史博物館(英国ロンドン)の古人類学者Chris Stringerによれば、ネアンデルタール人と現生人類が交わった年代が考えられていたよりもずっと後と分かったことで、「現生人類が10万年以上前にアフリカを離れて7万5000年以上前にアジアに達した」と考えてきた科学者たちは課題に直面しているという。オックスフォード大学(英国)の考古学者Michael Petragliaをはじめとするそうした研究者は、アジアから最終的にはオセアニアやオーストラリアにまで達した南岸ルート沿いの「古い」人類大移動を裏付ける証拠として、地中海東部沿岸のレバント地方で発見された10万年以上前のホモ・サピエンスらしき骨や、インドで発見された7万年前の石器を挙げている。

一方でPetragliaは、ウスチイシム人ゲノム解読結果に対して別の見方をしている。「約4万5000年前に進んでいた人口急増の一端だと思います。つまり現生人類は、4万5000年前には世界の果てまで到達していたのです」と彼は言う。その数は、それ以前の移動で到達していた人類集団を飲み込んだ可能性がある。

Petragliaは、古代のDNAやさらに別化石の発見により、アジアでの人類定着について、はるかに複雑な構図が明らかにされることを期待している。Stringerも、「これはシベリアの河川堆積物からたまたま発見されたものです。組織的に探し始めたら、もっといろいろと出てくるでしょう」と想像を膨らませる。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Q. Fu et al. Nature 514, 445–449(2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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