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がん細胞の排出物が正常細胞をがん化させる!?

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150105

原文:Nature (2014-10-23) | doi: 10.1038/nature.2014.16212 | Cancer cells can ‘infect’ normal neighbours

Heidi Ledford

腫瘍細胞から放出されたエキソソームと呼ばれる小胞が、正常な細胞をがん化させる可能性があることが分かった。

がん細胞は、多数の膜小胞(エキソソーム)を放出している。

Getty Images

がん細胞が外に捨てた「ゴミ」が、周囲の正常細胞を腫瘍細胞に変えてしまっているかもしれない。

多くの細胞は、さまざまなタンパク質やDNA、RNAを含んだ「エキソソーム」と呼ばれる微細な膜小胞を外部に多数放出しており、がん細胞もその例に漏れない。この放出プロセスは、細胞の廃棄物管理システムの1つと考えられている一方で、細胞間コミュニケーションを手助けしている可能性もある。放出されたエキソソームの一部は、別の細胞と融合して、その細胞内に「荷下ろし」することがあるからだ。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(米国ヒューストン)のがん研究者Raghu Kalluriのチームは今回、ヒト乳がん細胞由来のエキソソームにさらした正常細胞をマウスに注入すると、腫瘍を形成することを見いだし、2014年10月23日のCancer Cellオンライン版1に発表した。がんのエキソソームを分析することで、がんの進行を監視したり、治療標的を突き止めたりすることが可能になるかもしれない。

マックマスター大学(カナダ・ハミルトン)のがん研究者Khalid Al-Nedawiは、「この結果には驚きました。エキソソームは細胞のゴミ箱にすぎないと考えられていたからです。今回の研究によって、この微細な小胞の潜在能力を生かす手だてが見えてきました」と説明する。彼は今回の研究には参加していない。

危険な積み荷

がん細胞は正常細胞に比べて多くのエキソソームを放出することが以前に報告されている2。そこで、Kalluriのチームは、がん細胞のエキソソームと正常細胞のエキソソームの違いを調べることにした。培養して増殖させた細胞からエキソソームを単離して調べたところ、がん細胞のエキソソームにはマイクロRNA(miRNA)の産生に必要な構成成分(miRNAの前駆体分子やそれを切断して成熟miRNAに変える酵素)が含まれていることが分かった。miRNAは長さ20~25塩基の短いRNA断片で、標的遺伝子の発現を抑制することができる。

がん細胞由来のエキソソームにさらした正常細胞は、その遺伝子発現に変化が見られた。さらにこの細胞をマウスに注入すると、腫瘍を形成した。しかし、正常細胞由来のエキソソームにさらした正常細胞を注入しても、腫瘍は形成されなかった。また、miRNAを作る分子機構を阻害したがん細胞由来エキソソームにさらした正常細胞の場合は、腫瘍が形成されるがその増殖速度は遅かった。

Kalluriのチームはさらに、健常者8人と乳がん患者11人の血中からエキソソームを採集し、それぞれのエキソソーム検体にさらした正常細胞をマウスに注入したところ、乳がん患者由来の11検体中5検体で腫瘍増殖の誘導が観察された。一方、健常者由来のエキソソームでは、腫瘍形成の誘導は確認できなかった。

Kalluriによれば、エキソソームは血中から単離可能なことから、体内をかなり移動できると考えられるという。また、エキソソームの作用がたとえ局所に限られていたとしても、その作用によって近隣のがん細胞の悪性度が高まったり、正常細胞をがん細胞に転換させたりする可能性があると彼は話す。

エキソソームを阻害することでがんの進行を遅くするという案も浮かぶが、そう簡単にはいかないだろうとAl-Nedawiは話す。エキソソームの阻害によって正常細胞にどのような影響が及ぶか分からないからだ。それに、正常細胞が放出するエキソソームのうち一部のものはがんを防ぐタンパク質を含んでいる、という報告もある3

一方で、エキソソームをがんの検診や経過観察に利用することならずっと現実的だろうとAl-Nedawiは言う。またKalluriも、エキソソームは、現在腫瘍の追跡に用いられている「血中循環腫瘍細胞(CTC)」よりも数が多くて単離が容易だと指摘し、こう話す。「血中には、さまざまな細胞が作り出すエキソソームが何百万個もあるのですから、ツールとしての威力は抜群です」。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Melo, S. A. et al. Cancer Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.ccell.2014.09.005 (2014).
  2. Logozzi, M. et al. PLoS ONE 4, e5219 (2009).
  3. Putz, U. et al. Science Signaling 5, ra70 (2012). http://dx.doi.org/10.1126/scisignal.2003084

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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