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遺伝子が示すクモの複雑な進化

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141005

原文:Nature (2014-07-21) | doi: 10.1038/nature.2014.15578 | Spider gene study reveals tangled evolution

Ewen Callaway

遺伝子データを基にした系統樹が作成され、同じような網を作るクモであれば近縁である、という長年の定説が覆された。

メダマグモ科のクモは、さらさらした糸で丸い網を作る。

Matjaž Kuntner

飛んでいる虫を捕らえる方法はいくらでもある。そして、昆虫を捕らえる完璧なわなに思われる「クモの巣(網)」ですら、選択肢のうちの1つでしかないのかもしれない。最新の研究で、数百個の遺伝子に基づいてクモの系統樹が作成された結果、網以外の方法で獲物を捕ることを選択し、造網をやめたクモが多く存在することが示唆されたのだ。丸い形の規則性のある網を作るクモがみな近縁なわけではなく、そうしたクモの種の中には別の方法で獲物を捕る種の方が近い場合もあることがこの研究で示され、数十年来の定説が覆されることになった。

オーバーン大学(米国アラバマ州)の進化生物学者Jason Bondは、「クモの巣は、私たちが考えていたクモの進化の完成型などではなかったのです。これはすごいことです」と話す。Bondの研究チームは、33科の300個を超える遺伝子を分析することにより、クモの進化的関係を明らかにした1。その論文と、別の研究チームによる類似研究の成果2が、共に2014年8月4日にCurrent Biologyに掲載された。

これまでに命名されているクモは約4万5000種あり、それらは100を超える科に分類されている。丸い網を作るクモは主に、コガネグモ科、もしくは、あまりお目にかからないメダマグモ科に属している。両者は、化学的に異質な糸で網を作る。コガネグモ科のクモの糸は繊維に粘着性があり、メダマグモ科が作るさらさらした糸よりも効率よく網を作ることができる。それにもかかわらず網の作り方が似ているため、クモ学者たちは長年、両者を系統樹上で円網性クモ類として1つの群にまとめていた。

ところが今回発表された分子系統樹では、ずいぶん異なる構図が描かれている。この分子系統樹は、多くのクモ間で対応関係のある数百個の遺伝子においてDNAの違いを比較して作成された。その内容は、糸に土と植物を混ぜて地中にわなを作るトタテグモの特殊性など、クモの類縁関係に関する従来の考え方の多くを裏付けるものであったが、円網を作るコガネグモとメダマグモが、これまで考えられていたほど近縁ではないことを示唆するものでもあったのだ。

ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の進化生物学者Rosa Fernándezが率いる研究チームは、12科のクモの2000個を超える遺伝子から作成した系統樹を用いて同じ結論に至った。メダマグモは網を作る習性を持っているものの、これに近縁なのは、同じような円網を作るコガネグモよりも、獲物に忍び寄る習性を持つコモリグモ科やカニグモ科なのだという。

今回の発見から、クモの網の進化に関する説明には2通りが考えられる。1つは、「クモの巣」の出現が科学者の想定よりもはるかに古く、多くの科の共通祖先の時代にそれが出現し、それから一部の種が造網を行わなくなったというものだ。これは、多くの研究者がこれまで支持してきた考え方である。もう1つは、造網と糸を紡ぐ能力が複数回進化したという考え方だ。Fernándezによれば、どちらもあり得る話で、もっと多くの科のクモから遺伝子データを得なければこの謎は解決できないという。

一方、Bondは、太古に生まれた造網の習性が進化の過程で失われたという考え方を支持する。網を作るのに必要な一連の行動は、何度も進化するほど単純なものとは考えられないというのだ。Bondらは、自らの知見に基づき、円網が出現したのがジュラ紀前期(2億100万~1億8700万年前)であり、多くのクモの祖先が他の捕食法を選んで造網をやめたのではないかと考えている。

しかし、クモはなぜ網を作らなくなったのだろうか。「進化は予測不能なのです」というのが、スロベニア芸術科学アカデミー(リュブリャナ)の進化生物学者Matjaž Kuntnerの答えだ。「対称的な円はきれいですが、それが理想的な構造であるのは一部の環境、一部の獲物の場合に限られると思われます」とMatjaž。

カンザス大学(米国ローレンス)のクモ類古生物学者Paul Seldenも、多くのクモが造網をやめたと考える1人であり、こう述べる。「網は、飛んでいる昆虫を捕らえるのに役立ちますが、一方で、そこにクモがいることを捕食者に知らせるものでもあるわけです。より進化したクモは、造網をやめて別の方法を編み出したとしても不思議ではないでしょう?」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Bond, J. E. et al. Curr. Biol. 24, 1765–1771(2014).
  2. Fernández, R., Hormiga, G. & Giribet, G. Curr. Biol. 24, 1772–1777 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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