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バッタネズミは、毒サソリに刺されても平気

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140104

原文:Nature (2013-10-24) | doi: 10.1038/nature.2013.14014 | Rodent immune to scorpion venom

Sarah Zhang

今回、このネズミのサソリ毒に対する耐性のメカニズムが明らかになり、薬剤標的として注目されている。

Credit: MATTHEW AND ASHLEE ROWE

クモ形類動物に属するサソリの一種バーク・スコーピオンは、襲ってくる相手を毒針で刺して撃退しようとする。普通はこの毒針で刺されると強烈な痛みが引き起こされるが、バッタネズミは、この毒針で刺されても痛みをほとんど感じない。今回、その理由がようやく解明された。バッタネズミがサソリ毒の痛みを感じないのは、その痛み応答を制御する細胞経路に変異があるためだったのだ。

2013年10月24日のScience1で発表されたこの研究結果は、鎮痛剤を開発しようとしている研究者たちにとって、有望な薬剤標的候補のヒントになりそうだ。「これは素晴らしい完璧な研究です。行動から、その行動の説明となる分子の挙動まで、全てが明らかになりました」と、ケンブリッジ大学(英国)の神経科学者Ewan Smithは言う。彼はこの論文には関与していない。

Onychomys属の一種であるバッタネズミが暮らす米国南西部の砂漠では、バーク・スコーピオンは豊富にいるものの他の食物源は乏しい。バッタネズミは、サソリ毒に対する抵抗性のおかげで、この砂漠でも生き残ることができた。今回、ミシガン州立大学(米国イーストランシング)の進化神経生物学者Ashlee Roweらは、少量のサソリの毒液を、バッタネズミと、その遠縁にあたるハツカネズミの足に注射することで、バッタネズミはサソリに刺されても痛みを感じないという野外観察結果を検証した。すると、毒液の注射により、ハツカネズミは繰り返し自分の足をなめて不快感を示したのに対し、バッタネズミはほんの数回足をなめただけだった。

Roweらは次に、ハツカネズミとバッタネズミに、まず毒液を注射し、続いてホルマリン(痛みを引き起こすことが知られている化学物質)を注射する実験を行った。この場合でもやはり、バッタネズミが足をなめる回数は、ハツカネズミよりも少なかった。この結果から、バッタネズミのホルマリンによる痛みに対する感受性は、先に注射した毒液によって低下したことが示唆された。

さらにRoweらは、バッタネズミのニューロンで変化が起きている分子経路を突き止めることにも成功した。哺乳動物で疼痛シグナルを伝えるには、2つのナトリウムチャネルが必要である。1つは、シグナルを最初に発生させるチャネル、もう1つは、それを伝播させるチャネルだ。これまでの痛みに関する薬物研究では、主に前者のチャネルに焦点が当てられてきた。サソリ毒は、疼痛シグナルを発生させるチャネルを刺激する物質であるが、このサソリ毒が、バッタネズミではシグナルを伝播させるチャネルを抑制することが今回分かった。その結果、バッタネズミは、サソリ毒が引き起こすはずの疼痛を感じなくなっているのである。

疼痛のスイッチ

Roweらは、バッタネズミのサソリ毒への反応は、痛みを伝播するチャネルのわずかな構造上の違いによって説明できると考えている。バッタネズミとハツカネズミでは、ナトリウムチャネルを構成するタンパク質のアミノ酸が1つだけ違っており、そのためにバッタネズミでは毒液による疼痛シグナルの伝播が抑制されるのだ。

Roweは、バッタネズミの毒液に対する感受性の欠如には、他の分子に生じた変化が寄与している可能性もあるが、中心的役割を担っているのは、今回彼女が特定したアミノ酸の違いだと考えている。

「これは非常に傑出した論文です」とコロラド大学医学系大学院(米国オーロラ)の神経科学者Rock Levinsonは言う。彼は、この研究の学際的手法、すなわち行動、電気生理学、および分子生物学の実験により得られた証拠を組み合わせたやり方を賞賛する。

ハダカデバネズミで同様の疼痛抵抗性メカニズムを発見した2イリノイ大学(米国シカゴ)の神経科学者Thomas Parkも、2つの種で、似たような形質が平行して進化していることを知り、胸が高鳴ると言う。

バッタネズミの場合もハダカデバネズミの場合も、ある物質が、自身が生み出した疼痛シグナルを遮断する。その物質は、受容体を活性化して痛みを引き起こすとともに、その受容体の下流にある変異したナトリウムチャネルに作用することで、疼痛シグナルをブロックするのである。これら2種類の動物の痛みを遮断する能力についての研究が進めば、将来的には医学的な応用につながる可能性もある。

(翻訳:古川奈々子、要約:編集部)

参考文献

  1. Rowe, A. H., Xiao, Y., Rowe, M. P., Cummins, T. R. & Zakon, H. H. Science 342, 441-446 (2013).
  2. Park, T. J. et al. PloS Biol. 6, e13 (2008).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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