都会の鳥は吸い殻で巣を守る
「巣の内張りにタバコの吸い殻が使われている」などと聞くと、何とも不健康な話だと思ってしまう。しかし、2012年12月にBiology Lettersに報告された論文1によると、都会の鳥がタバコの吸い殻を利用することは、不自然な話でも何でもなく、大昔からの「適応」の現在版と考えられるようだ。
寄生生物を駆除する物質を多く含んだ植物を使って、鳥類が巣の内張りをしていることはよく知られている。またタバコの葉に含まれる化学物質は、寄生ダニなどの節足動物を寄せつけない。このことから、メキシコ国立自治大学(メキシコシティ)の生態学者Monserrat Suárez-Rodríguezたちの研究チームは、都会の鳥も同じような目的でタバコの吸い殻を使っているのではないかと考えた。
研究チームは、北米大陸で一般的な2種の鳥類の巣について、タバコの吸い殻に含まれる酢酸セルロースがどのくらい存在するのか、測定した。そして、その量が多い巣ほど、寄生ダニが少ないことが明らかになった。
研究チームはさらに、熱で寄生生物をおびき寄せるトラップを利用して、吸い殻のニコチン含有量が寄生生物を遠ざける効果と関連するのかどうか、また、吸い殻の形などの特徴は無関係なのかどうか調べた。トラップには、セルロース繊維、タバコ(喫煙済みまたは新品のもの)、さらにダニを捕獲するための接着テープを取り付け、これを大学構内のイエスズメ(Passer domesticus)の巣27個とメキシコマシコ(Carpodacus mexicanus)の巣28個に設置した。
すると20分後、新品タバコのトラップには、喫煙済みタバコのトラップよりもたくさんのダニが捕らえられていた。つまり、タバコの吸い殻のほうが新品タバコよりも強い忌避効果を示したのだ。これは、煙が内部を通った吸い殻のほうが、ニコチン含有量が多いからであろう。実際、抱卵中の鳥の巣では、新品タバコのトラップのダニの捕獲数は、平均で2倍以上になっていた。
「都会の鳥はニコチンの多いタバコを選んでいるようです。これが本当だとすると、この行動は、寄生生物からの攻撃に対する適応応答として、進化したものではないかと考えられます」。サウスカロライナ大学(米国コロンビア)の生態学者Timothy Mousseauはこう指摘する。
ただ、タバコの吸い殻は、寄生生物を遠ざけるだけでなく、鳥自身にも悪影響を及ぼす可能性がある、とSuárez-Rodríguezは懸念する。発がん性を持つとされる物質や農薬として使われている物質が含まれているからだ。
翻訳:小林盛方
Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2
DOI: 10.1038/ndigest.2013.130203
原文
City birds use cigarette butts to smoke out parasites- Nature (2012-12-05) | DOI: 10.1038/nature.2012.11952
- Matt Kaplan
参考文献
- Suárez-Rodríguez, M., López-Rull, I. & Garcia, C. M. Biol. Lett. http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2012.0931 (2012).