Research press release

免疫学:過去のデータを今後のパンデミック予測の改善に生かす

Nature

ウイルスの進化、特に宿主の免疫系による検出を回避できる変異株の出現を予測するための新しいツールを発表する論文が、今週のNatureに掲載される。これは、各種ウイルスの既知の塩基配列を用いた深層学習モデルによる予測ツールであり、パンデミック(世界的大流行)の早期警報システムとして機能し、今よりも早期にワクチン開発の指針を提示できる可能性がある。

有効なワクチンや治療法を設計するには、ウイルスがどのようにして免疫検出を回避できる変異株に進化するのかを正確に予測する必要がある。現在の予測方法では、ウイルス感染者から抗体の検体を大量に集める必要があるが、パンデミックの初期段階では入手できない。また、一部のウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2〔SARS-CoV-2〕)は急速に進化するため、全ての変異株を検査して、一つ一つがどのように変異するかを予測することは現実的でない可能性がある。

今回、Debora Marksらは、パンデミックを引き起こす可能性のあるウイルス変異を現状より早期に予測できるツールを目指して、「EVEscape」というモデルを開発した。EVEscapeは、各種ウイルスの既知の塩基配列を用いた深層学習モデルに基づいており、このモデルによって得られた情報を既知の構造情報と生物物理的情報と組み合わせて、ウイルスが変異すると、中和免疫応答を回避する可能性が生じるかどうかを予測する。2020年以前に入手したウイルス(例えば、SARS-CoV-1や季節性コロナウイルス)の塩基配列を使って訓練されたEVEscapeは、どのSARS-CoV-2変異株が免疫検出を回避する可能性があるかを遡及的に正確に予測した。

Marksらは、EVEscapeが早期に逃避変異の正確な予測を行うことができると述べ、パンデミックの進行に伴って追加で利用できるようになる塩基配列情報や構造情報によって予測が充実すると付言している。同時掲載のNews & Views論文では、Nash RochmanとEugene Kooninが、「この方法は、つまり、集団内に存続するエンデミック(地域性流行)ウイルスの将来の変異株を予測し、合理的なワクチン設計にとって有益な情報を提供し、未知のウイルスによるパンデミックのリスクを評価するために使用できる可能性がある」と述べている。

doi: 10.1038/s41586-023-06617-0

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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