Research press release

工学:心臓が血液を送り出すように流体を配管内に流すという発想

Nature

流体が脈動的に配管内を流れるようにすることが、工業用流体の移送の効率化につながるかもしれないという知見を報告する論文が、今週、Natureに掲載される。このように人体の大動脈の血流のように流体を流すという方法は、エネルギー消費量を節約できる可能性がある。

多くの産業で、配管を介した液体やガスの移送が必要とされており(例えば、石油やガスのパイプライン)、家庭内環境でも、例えば暖房配管が用いられている。配管や水路を流れる流体は、配管の内壁との摩擦によって乱流状態になるため、流体を配管に送り込むポンプが必要とするエネルギー量が増加し、ポンプの費用を押し上げている。

今回、Bjoern Hofらは、配管内の乱流を抑制するため、大動脈の血流から着想を得た仕組みを設計した。大動脈の血流は脈動流状態で、乱流のレベルが低いため、大動脈血管の損傷が回避されている。これまでに配管内の流体に周期的な脈動を加える試みがなされてきたが、乱流を減少させる効果は限定的だった。これに対して、Hofらは、配管内に流体を送り込む際に心周期の拡張期(心拍と心拍の間に心臓が弛緩する時)に似た休止期を設定した。この方法により、流体を定常流の状態で流す場合と比べて、配管摩擦抵抗が最大25%減少し、ポンプの消費電力が約9%節約できた。

同時掲載のNews & Viewsでは、Angela Busseが、「流体を送り出すポンプの消費電力は、欧州連合の総エネルギー消費量の約15%を占めていると推定されることを考慮すると、ポンプの消費電力が約9%節約できれば、エネルギー効率の向上にかなり貢献できるだろう」と述べている。ただし、そのような節約を実現するには、さらなる研究が必要とされる。また、Busseは、今回の研究に用いられた流動特性は、工業用配管内の流体の流れに用いられるものと同等でない可能性がある点と、実験は直線配管を使って行われており、全ての現実世界のシステムを反映しているとは限らない点を指摘している。

doi: 10.1038/s41586-023-06399-5

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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