Research press release

人間行動学:ヨーロッパの人々が難民を支援する姿勢に揺るぎはないようだ

Nature

特定のタイプの庇護希望者に対するヨーロッパの人々の態度は、長期にわたって安定しているという研究結果を示した論文が、Natureに掲載される。この研究では、難民の属性のうち、人々が好意的に感じる傾向の強い属性が明らかにされ、2022年にロシアの侵攻を受けて避難民となったウクライナ人は、このプロファイルに当てはまるため歓迎されたことが示唆されている。今回の知見は、難民支援を推進する要因を理解する上で役立つ可能性があり、政策立案者が庇護システムへの圧力に対応するために利用できるかもしれない。

過去10年間にヨーロッパ諸国に入国した庇護希望者は数百万人に達し、その原因には2015~2016年のシリア難民危機と2022年のロシアによるウクライナ侵攻が含まれる。このように繰り返される人道危機が、人々の難民に対する認識にどのような影響を与えるのかについては、はっきりしたことが分かっていない。この点に関して、ある学説は、難民の数が増え続けると、一般市民の支援が薄れる可能性があるとするが、人々がウクライナ難民を歓迎する態度が、この学説に疑いを投げ掛けている。

Dominik Hangartner、Kirk Bansak、Jens Hainmuellerらは、難民に対する一般市民の態度を解明するため、2015~2016年と2022年の難民危機の際に実施された2回のコンジョイント実験の結果を比較した。これらの実験には、ヨーロッパ15カ国の約3万3000人の市民が参加し、2016年と2022年の実験にそれぞれ約1万8000人と1万5000人が参加した。実験では、さまざまな属性の1つ1つを無作為に決めて、数々の架空の庇護希望者のプロファイルを作成し、参加者に複数のプロファイルを提示した。参加者は、それぞれのプロファイルを評価し、評価結果を回答した。この実験で、ヨーロッパの市民が好意的に感じる難民の特徴として、女性、キリスト教徒、若者(21歳前後)などが判明した。また、経済的理由で移住してきた難民よりも、戦争から逃れてきた難民の方が好意的に見られるなど、避難民となった状況も影響を与えていた。著者らは、こうした市民の選好性が安定的に推移し、全体的な支援は、どちらかといえば時間の経過とともに盛り上がっているという見方を示している。また、著者らは、2022年に流入したウクライナ人が歓迎されたことについて、その人口動態的特徴と避難民となった状況が理由であり、世界から取り残された他の難民集団がそのあおりを受けたわけではないことを明らかにし、特に危機的状況下では、全ての難民に対する支援が安定的に寛大なことを指摘している。

今回の研究の限界の1つは、データが過去10年間に2つの時点でしか収集されていないことであり、これらの時点間の世論の変動が見逃されている可能性がある。しかし、著者らは、2つの研究期間における結果に一貫性が見られたことは、市民の選好性が安定的に推移していることを示唆していると結論付けている。

doi: 10.1038/s41586-023-06417-6

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