細胞生物学:熱が引き金となって起こるリン脂質の反転移動は細胞膜の流動性を安定化する
Nature 655, 8124 doi: 10.1038/s41586-026-10726-x
細胞は、膜の損傷を防ぐために、熱ストレスによって引き起こされる細胞膜の過剰な流動化に迅速に対処しなければならない。しかし、細胞がこのような早い段階での防御をどのような方法で行うのかは、まだ解明されていない。今回我々は、イネ(Oryza sativa)において、P4-ATPアーゼであるOsALA5がそのβ-サブユニットであるOsALIS2と共に働いて、飽和ホスファチジルコリンの熱応答性の反転を媒介し、それが細胞膜の流動性を素早く安定化することを示す。リーフレットを分離してのリピドミクスと相補的な輸送アッセイを用いることにより、熱への曝露が数分程度でOsALA5の輸送活性を変化させ、それによって細胞膜の細胞質側リーフレットに飽和ホスファチジルコリンが選択的に濃縮されることが明らかになった。OsALA5を介した飽和ホスファチジルコリンのこの反転は、熱ストレスに応じた細胞膜の過剰な流動化を防ぎ、イオンの漏出と細胞死を軽減している。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)と酵母のOsALA5オルソログを解析したところ、細胞膜に局在してホスファチジルコリン輸送を担う一部のP4-ATPアーゼでは、迅速な熱関連応答の機能がよく保存されていることが裏付けられた。さらに、複数年にわたる複数の場所での野外試験において、熱耐性と収量安定性の両方をもたらす珍しいOsALA5ハプロタイプが見いだされた。このように、今回の研究によって、熱ストレスに応じて起こるP4-ATPアーゼを介した飽和ホスファチジルコリンの反転移動が明らかになり、熱耐性作物の育種を進展させる遺伝的資源が得られただけでなく、細胞が、熱ストレスが引き起こす細胞膜の過剰な流動化に対して、どのような方法でこれまで知られていた転写依存性の脂質再編成応答よりも早い段階で対抗するのかも明らかになった。

