細胞生物学:ミトコンドリアのL-2-ヒドロキシグルタル酸は生理的なシグナル伝達代謝物である
Nature 655, 8124 doi: 10.1038/s41586-026-10564-x
L-2-ヒドロキシグルタル酸(L-2-HG)は哺乳類において存在量の少ない代謝物である。これは、ミトコンドリアの酵素L-2-HGデヒドロゲナーゼ(L2HGDH)がL-2-HGを2-オキソグルタル酸(2-OG)へと酸化して、L-2-HGの蓄積を防いでいるからである。ヒトでは、L2HGDH活性がないとL-2-HGの蓄積につながり、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症が引き起こされる。従って、L-2-HGは毒性代謝物に分類されることが多い。しかし、L-2-HGに何らかの生理的機能があるのかどうかは、よく分かっていない。今回我々は、レベルが調節されていること、明確な分子標的を持つこと、測定可能な生理機能を持つことという3つの基準に照らして調べることにより、L-2-HGが生理的なシグナル伝達代謝物に該当するかどうかを検証した。我々はまず、ミトコンドリアのNADH/NAD+比が上昇すると、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ2(MDH2)による2-OGのL-2-HGへの還元が促進されることを示す。さらにL2HGDHは、機能する電子伝達鎖を必要とせずに、ミトコンドリアのマトリックス内でL-2-HGを酸化して2-OGへと戻す。PISA(proteome integral solubility alteration)アッセイにより、KDM4ファミリーのH3K9デメチラーゼがL-2-HGの応答標的であることが明らかになった。マウスの胚性幹細胞では、L-2-HGは特定の遺伝子の新たな転写を抑制し、それらの座位でH3K9me3(抑制性のヒストン標識)を増加させる。in vivoでは、マウスの初期胚でL2HGDHを過剰発現させると、全身でL-2-HGレベルが低下し、出生後の成長が損なわれ、死亡を引き起こし、腎臓選択的な機能的・組織学的脆弱性が生じた。出生後の腎臓では、このL-2-HGの減少により、L1MdTfレトロトランスポゾンのH3K9me3が失われ、L1MdTfの脱抑制が引き起こされた。これは統合的ストレス応答と炎症経路の活性化と同時に生じた。これらの知見は、ミトコンドリアのL-2-HGが生理的なシグナル伝達代謝物であることを明らかにするとともに、これまでは毒性物質と考えられていた代謝物も非常に重要な生理的機能を有している可能性を示している。

