神経科学:「歌う」マウスにおける運動皮質投射の特異的拡張
Nature 655, 8122 doi: 10.1038/s41586-026-10458-y
神経回路構造の変更が行動の革新をどのように駆動しているかを解明することは、神経科学と進化生物学の重要な課題であり続けている。哺乳類では、大脳新皮質が急速な行動の革新を促す上で重大な役割を果たしていると考えられている。長距離結合の変化がそうした革新の基礎となると提唱されているが、これらの仮説が定量的に検証された例はほとんどなく、その一因は、種を超えた、単一ニューロン解像度で得られるハイスループットの神経投射データが不足していることである。今回我々は、実験室マウス(Mus musculus)にはない、顕著な発声行動を示すオアハカチャイロマウス(Scotinomys teguina)を解析対象として、脳全体にわたる運動皮質投射の種特異的な変化を定量的に決定した。我々は、バルク追跡、連続2光子断層撮影、バーコード付けした7万6000以上のニューロンのハイスループットDNA塩基配列解読法を用いて、発声行動に関連する領域群とされる聴覚皮質領域と中脳水道周囲灰白質に向かう口腔顔面運動皮質からの投射が、特異的かつ著しく拡張していることを発見した。また、個々の口腔顔面運動皮質ニューロンの投射モチーフの解析によって、この「歌う」マウスでは聴覚皮質領域への排他的投射が優先的に拡張していることが明らかになった。今回の結果は、祖先的な運動皮質投射の選択的拡張が、短い時間スケールでの行動の分岐をもたらす可能性を示唆している。さらに今回の結果は、ヒトの言語にとって重要な前適応とされる、発声に対する皮質制御の強化についての機構的な研究を促す。近い過去に分岐したにもかかわらず大きな行動上の差がある種を比較する今回の手法は、神経回路進化の定量的法則の発見に向けて、他のモデルクレードにも容易に一般化できる。

