進化遺伝学:5500年前にバイカル湖周辺地域の狩猟採集民の間で起きたペストの致死的なアウトブレイク
Nature 654, 8119 doi: 10.1038/s41586-026-10540-5
ペストは、人類史上最も壊滅的な被害をもたらした疾患の1つである。しかし、ペストの原因菌であるペスト菌(Yersinia pestis)の初期の株は、約3800年前まで、腺ペストを引き起こすのに必要な毒力因子を持っていなかった。そのため、初期のペスト株の罹患率と死亡率はいまだ明らかになっていない。今回我々は、シベリア南東部のバイカル湖周辺地域に存在した中期完新世の狩猟採集民の間で、約5500年前に始まった2段階のアウトブレイク(集団発生)と関連付けられる初期のペスト菌株について報告する。これらのアウトブレイクは狩猟採集民の4つの墓地にわたって見られ、ペスト感染の検出率は39%であった。親族関係の家系図を再構築することで、疾患のヒト間伝播と一致する小さな家族集団での罹患、そして最初のアウトブレイクが単一世代内で起きたことが分かった。このアウトブレイクでの感染は、特に小児(8~11歳)の間で急性死亡につながったとみられる。さらに、現在の仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)にも存在するスーパー抗原遺伝子ypmの座位におけるものなど、機能的な差異が見られた。この新たな株は、既知のペスト菌とは祖先的に分岐しており、出現時期が限定されていて、約5700年前より前に生じたことが示された。これらの知見は、ペストのアウトブレイクがこれまで考えられていたよりも早い時期に起きていたこと、そしてそれらが実際に致死的なものであったことを示している。後期新石器時代のヨーロッパ地域のはるか外側に位置する、中期完新世の狩猟採集民コミュニティーでアウトブレイクが起こったことは、新石器時代の農耕への移行期の人口密度の上昇と生活様式の変化が、ペストがエンデミックとなる前提条件であったという考えに異議を唱えるものであると、我々は主張する。

