Article

古人類学:エナメル質ナノ結晶の結晶方位差は肉食と農耕に伴って増大した

Nature 654, 8117 doi: 10.1038/s41586-026-10583-8

エナメル質は歯を覆う組織であり、脊椎動物の体で最も硬い組織であるとともに、ナノメートルからミリメートルに及ぶ複雑なマルチスケール構造を有する。その構造は、幅50〜70 nm、長さ数マイクロメートルの細長いヒドロキシアパタイト(Ca5(PO4)3OH)ナノ結晶からなり、それらが平行に並んで約5 μm幅のロッド状構造に束ねられている。これらの構造はうねりながら交差してマイクロスケールの「交叉パターン」を形成し、このパターンは、亀裂を偏向させることでエナメル質を強靱にしている。しかし、エナメル質ナノ結晶の結晶方位については十分には理解されていない。今回我々は、1780万年にわたる進化と多様な食性を代表する9種の霊長類の歯12本において、隣接するナノ結晶の方位差角が著しく異なっていることを示す。我々は、PELICAN(Polarization Enabled Large Input of Crystal Angles at the Nanoscale)と呼ばれる方法を用いて、同じ小臼歯・大臼歯の位置にあるナノ結晶を比較し、現生および化石の類人猿・サル類では食物の硬さに伴って方位差が増大することを示す。我々はまた、ヒトの進化における3つの主要な食性の転換、すなわち約200万〜150万年前の肉食への移行、約1万2000年前の農耕への移行、約250年前の産業革命にわたって、方位差を比較した。その結果、ヒト系統では過去160万年にわたって方位差が増大しており、特に肉や石臼で挽いた穀物がヒトの食生活に導入された時期に顕著だったが、産業革命では増大しなかったことを示す。従って、歯はマクロな変化だけでなく、ナノスケールで結晶学的にも食性変化に適応した。今回の観察結果は、方位差がエナメル質のレジリエンスに寄与している可能性を示唆しており、このため、生物に着想を得た材料では、レジリエンスを高めるために小さな方位差を取り入れることができるかもしれない。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度