遺伝学:ヒトの発生における調節の文法をマルチオミクスと深層学習によって解析する
Nature 653, 8116 doi: 10.1038/s41586-026-10326-9
転写因子は、発生の際に調節DNAに塩基配列特異的に結合し、多くの場合、クロマチンアクセシビリティーを局所的に高める、あるいは遺伝子の発現を調節するなどによって細胞のアイデンティティーを確立する。オープンなクロマチン領域をマッピングすれば転写調節に関する重要な考察が得られるが、ヒトの発生について現在利用可能なデータセットは、バルク組織や単一の臓器、あるいは1種類のモダリティーに限定されている。本論文で我々は、Human Development Multiomic Atlas(ヒト発生マルチオミクスアトラス)を報告する。これは、12の臓器にまたがる81万7740個の胎児細胞から得たクロマチンアクセシビリティーと遺伝子発現の単一細胞レベルのアトラスで、203の細胞タイプ、100万を超えるシス調節エレメント候補(その多くはin vivoで器官特異的なエンハンサー活性を示す)を網羅する。局所的なDNA塩基配列からクロマチンアクセシビリティーを予測するように訓練された深層学習モデルによって、アクセシビリティーに影響するモチーフの包括的な辞書が明らかになった。その中には、転写因子の協調に関わると予測される文の構成上の明確な統語的制約を示す混成モチーフも含まれる。またモチーフ同士の正確な間隔やモチーフの正しい方向を要求する「厳格な」ルール、モチーフの配置に融通性のある「緩やかな」ルール、クロマチンアクセシビリティーを妨げる普遍的モチーフも突き止められた。モデルに基づいて遺伝的バリアントを解釈したところ、正の作用、負の作用を持つモチーフの破壊が遺伝子発現への一致した作用に結び付くことが判明した。これらの知見によって、モチーフ構文が細胞タイプ特異的なクロマチンアクセシビリティーを制御する仕組みの詳細が明らかになり、ヒトの発生の際に働くシス調節ロジックの解析と遺伝的変異の解釈に役立つ基本的な情報資源が得られた。

