進化学:海洋性酵母における単細胞性と多細胞性を切り替える遺伝的スイッチ
Nature 650, 8103 doi: 10.1038/s41586-025-09881-4
多細胞性の進化は、地球の生命史における大きな変化の1つと考えられている。単細胞性から恒常的多細胞性への進化の過程では、単細胞の増殖とクローン多細胞の成長とが切り替わり得る可塑的クローン多細胞性が、中間的状態となっていた可能性がある。しかし、その切り替えの仕組みについてはほとんど知られていない。本研究で我々は、クロイボタケ綱に属する2種の黒色酵母において、栄養条件に応答する可塑的クローン多細胞性の遺伝子・細胞レベルの基盤を明らかにした。Hortaea werneckiiは、特定の10個の遺伝子のうち任意の1個を欠失させると、ほぼ恒常的な単細胞性または多細胞性となる。そのうち6個の遺伝子は、糸状菌において分生子形成(無性胞子形成)の調節因子をコードしているが、H. werneckiiでは分生子形成は認められていない。この表現型は第二変異によって回復または反転することが多く、これによって、可塑的多細胞性の背後にある遺伝的柔軟性が明らかになった。H. werneckiiではMybタンパク質が状態変化のスイッチ様調節因子として機能しており、その発現および分解は栄養条件と連動していて、単細胞の増殖または多細胞の成長を安定化させる。一方、近縁種のNeodothiora pruniでは、分生子形成の調節因子が同様に転用されて可塑的多細胞性を可能にしているものの、Myb遺伝子は不可欠ではなく、これは可塑性調節の分子的多様性をさらに強調している。生態学的には、多細胞化傾向の強いH. werneckiiの生態型が海綿動物から単離され、また、海綿動物を浸したならし培地は多細胞化を誘導した。本研究は、遺伝子・細胞・生態のスケールにわたって可塑的クローン多細胞性を解明するための扱いやすいモデル系を確立するとともに、多細胞性、さらにはより幅広く表現型の可塑性を獲得・喪失・再獲得する遺伝子・細胞レベルの戦略を概説するものである。

