遺伝学:複数の重なり合う結合部位が転写因子のDNA占有率を決定する
Nature 646, 8086 doi: 10.1038/s41586-025-09472-3
転写因子(TF)は、DNAと塩基配列特異的に相互作用することによって遺伝子発現を調節する。タンパク質結合マイクロアレイやHT-SELEX(high-throughput systematic evolution of ligands by exponential enrichment)のようなハイスループットのin vitro測定法によって、何百種類ものTFのDNA結合特異性が明らかにされてきた。しかし、これらの方法は、親和性が比較的低いDNA結合部位を確実に識別する能力が限られており、遺伝子発現の空間的時間的に正確な制御におけるその重要性が次第に認められるようになってきた。今回我々は、こうした限界に対処するために、in vitroでの転写とRNA塩基配列既読によって、タンパク質のDNAに対する親和性を測定する方法(PADIT-seq)を開発し、これを用いて6種類のTFについて、長さ10塩基対の任意のDNA塩基配列全てに対する結合の選択性を包括的に検討し、数百箇所に及ぶ新規な低親和性結合部位を検出した。低親和性結合部位のレパートリーの拡張によって、DNAの高親和性結合部位の両側に位置するヌクレオチドが重なり合う低親和性結合部位を作り出しており、これらが一緒になってin vivoでのTFのゲノム占有率を調整していることが明らかになった。我々はこれらの知見から、TFの結合は、個々の結合部位ではなく、複数の重なり合う結合部位の総和によって決定されるというモデルを提案する。この重なり合い結合モデルにより、高親和性結合部位を共有するパラロガスなTF間の競争が、両側のヌクレオチドによる低親和性結合部位の重なり部分の数の違いによってどのように決まるかが説明できる。特に重要なのは、このモデルがノンコーディングバリアントの影響についての理解を大きく変えることである。このモデルによって、1個のヌクレオチドの変化が同時に複数の重なり合った部位も変化させ、遺伝子発現および疾患も含めたヒト形質に相加的に影響する仕組みが明らかになった。

