がん:PCSK9は膵がん器官選択を誘導する
Nature 643, 8074 doi: 10.1038/s41586-025-09017-8
転移細胞が遠隔部位で増殖するためには、二次器官に固有の細胞や代謝の構成がもたらす大きな課題を乗り越えなくてはならない。膵管腺がん(PDAC)は、肝臓や肺へ転移するアグレッシブな疾患である。原発部位から離れると代謝の再プログラム化が起こる証拠はあるものの、PDAC細胞が肝臓や肺で定着し、そこで生き延びる能力を決定するカギとなるドライバーまだ明らかにされていない。今回我々は、ヒトPDAC細胞株の転移指向性データ、マウスのin vivo転移モデル作製、遺伝子発現相関解析を統合することによって、PCSK9が肝臓に定着するか肺に定着するかを予測する因子であることを明らかにした。PCSK9は低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの取り込みを負に調節することで、PCSK9低発現PDAC細胞はLDLに富む肝組織に優先的に定着する。肝集積性のあるPCSK9低発現細胞によって取り込まれたLDLコレステロールは、リソソームにおいて増殖促進性のmTORC1活性化を助けて、シグナル伝達物質のオキシステロールである24(S)-ヒドロキシコレステロールへ変換されることによって、その微小環境を再プログラム化して近傍の肝細胞から栄養素を放出させる。反対に、PCSK9を高発現する肺集積性PDAC細胞は、酸素に富む肺の微小環境における脆弱性であるフェロトーシスに対して保護作用のある中間体(7-デヒドロコレステロールや7-デヒドロデスモステロール)を生成するために、末端のコレステロール合成経路の転写上方調節に依存する。PCSK9の量を増加させると、肝集積性細胞が肺へ向かう一方で、PCSK9を欠失させると、肺集積性細胞が肝臓へ誘導され、従って、PCSK9は二次器官部位選択性に必要かつ十分であることが明らかとなった。我々の研究は、PCSK9が誘導する末端のコレステロール合成経路の利用の違いが、PDACの転移性増殖の重要かつ治療標的となり得るドライバーであることを明らかにしている。

