神経発生:ヒト特異的なエンハンサーが放射状グリアの能力と皮質形成を微調整する
Nature 643, 8074 doi: 10.1038/s41586-025-09002-1
ヒトは、発生と遺伝子調節の変化に関連する、非常に拡大した複雑な大脳皮質を進化させてきた。ヒト加速領域(HAR)とは、ヒト特異的なヌクレオチド置換を持った、高度に保存されたDNA塩基配列をいう。注釈付けされたHARは数千もあるが、種特異的な皮質発生へのそれらの機能的寄与は、ほとんど分かっていない。HARE5は、脳発生中に活性化するWNTシグナル伝達受容体Frizzled8のHAR転写エンハンサーである。今回我々は、ゲノム編集を行ったマウス(Mus musculus、Mm)と霊長類のモデル系を用いて、ヒト(Homo sapiens、Hs)のHARE5が、神経前駆細胞の増殖能と神経新生能を制御することで、皮質の発生と接続性を微調整していることを実証する。Hs-HARE5ノックインマウスの新皮質は有意に拡大しており、より多数の興奮性ニューロンを含んでいた。in vivoで神経動態を調べると、これらの解剖学的特性の結果、皮質領域間の機能的独立性が増していることが分かった。また、固定画像化とライブ画像化、系譜解析および単一細胞RNA塩基配列解読を用いて、基盤となる発生機構を検討した。その結果、Hs-HARE5は放射性グリア細胞の挙動を変え、初期発生段階では自己複製を増加させ、その後に神経新生能を拡大することが分かった。ゲノム編集を施したヒトとチンパンジー(Pan troglodytes、Pt)の神経前駆細胞と皮質オルガノイドを用いて、Hs-HARE5の4つのヒト特異的バリアントが、前駆細胞の増殖を促すエンハンサー活性の亢進を駆動していることが分かった。さらに、Hs-HARE5はカノニカルなWNTシグナル伝達の増幅によって、前駆細胞の増殖を増加させていることも分かった。これらの知見は、調節性DNAのわずかな変化が重要なシグナル伝達経路に直接影響を及ぼして脳発生を変化させ得る仕組みを示している。今回の研究から、ヒト大脳皮質の拡大と複雑化に重要なカギとなる調節因子としてのHARの新機能が明らかになった。

