がん:転移性膵臓がんにおけるトランスクリプトームの可塑性の空間的マッピング
Nature 642, 8066 doi: 10.1038/s41586-025-08927-x
難治性の膵臓がん患者ではしばしば全身性の転移が起こるが、治療抵抗性の基盤にあるトランスクリプトームの不均一性、特に空間的状況での不均一性については、研究が進んでいない。本研究で我々は、13人の迅速解剖から得られた膵臓原発腫瘍および転移腫瘍(肝臓、肺、腹膜)55検体に由来する空間分解トランスクリプトームを用いて、細胞系譜の状態、クローン構造および腫瘍微小環境(TME)の高分解能マップを構築した。腫瘍が原発巣から器官特異的転移巣へ移るにつれて、がん細胞系譜状態にはトランスクリプトームの識別可能な移行が認められ、特に同一患者内の肝臓と肺の間で違いが最も顕著であった。各患者の原発巣と転移巣の座位で推定されるコピー数変化から構築した系統樹によって、患者特異的な多様な進化軌跡とクローン播種が明らかになった。各組織には複数の腫瘍系譜状態が共存しており、同一の器官に複数の転移巣が同時に存在している場合もあることが分かった。組織部位にかかわらず、系譜の状態はそれぞれのTME特性と相関していた。例えば、TGFB1を発現する筋繊維芽細胞がん関連繊維芽細胞(myCAF)は、アグレッシブな「基底細胞様」がん細胞と空間的に近接していたが、「古典的」あるいは「中間的」な状態の細胞には近接していなかった。これらの知見は、マウス組織および患者由来オルガノイドを用いた直交性の種間解析によって確認された。特に、myCAFと共局在する基底細胞様がん細胞は、腫瘍環境からの形質細胞の排除に関わっており、隣接細胞の解析では、観察された免疫排除の基盤にはCXCR4–CXCL12シグナル伝達があることが示唆された。まとめると我々の知見は、難治性膵臓がんを特徴付けるトランスクリプトームの顕著な不均一性と微小環境の動態を明らかにしている。

