Review
免疫学:呼吸器感染症を対象とした経鼻ワクチン
Nature 641, 8062 doi: 10.1038/s41586-025-08910-6
エドワード・ジェンナーによる天然痘ワクチンの発見に始まり、病原体に対するワクチンの開発が広がり、多くの命を救っている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の際には、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による重症化を効果的に制御する革新的なmRNA注射ワクチンが登場した。このワクチンは、血清中に強力な抗原特異的中和IgG抗体を誘導したものの、呼吸器表面でのウイルス侵入阻止効果は限定的であった。経鼻ワクチンは、呼吸器での感染を阻止するための、そして、今後のパンデミックに備えるための有望な戦略として注目を集めている。免疫学だけではなく、微生物学、生体材料学、生物工学、化学などとの異分野融合により、革新的なワクチン送達システムが生み出されている。このワクチン送達手法を使って、血清IgG抗体と同様に分泌型IgA抗体を誘導する経鼻ワクチンが創出されており、これらのワクチンは、病原体の侵入を防ぎ、伝播を減らして、疾患の重症度を軽減すると期待されている。経鼻ワクチン開発の成功に向けては、関連する解剖学的、生理学的、免疫学的な特徴と複雑性、例えば中枢神経系と鼻腔の近接性などを考慮する必要がある。本総説で我々は、呼吸器感染症の予防を目的とした安全かつ効果的な経鼻ワクチンの開発に向けた、過去および現在の取り組みと今後の方向性について論じる。

