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冶金学:複雑構造相工学による耐水素脆性Al合金
Nature 641, 8062 doi: 10.1038/s41586-025-08879-2
水素脆化(HE)は、アルミニウム(Al)合金の耐久性を損ない、水素経済におけるその使用を阻んでいる。Al合金中の金属間化合物粒子によって水素のトラップとHEの軽減が可能だが、こうした粒子は通常、従来の強化ナノ析出物と比較して低密度で析出する。今回我々は、Sc添加Al–Mg合金におけるサイズの異なる複雑構造を持つ析出物について報告し、微細Al3Scナノ析出物と、in situ生成した高い水素トラップ能を持つコア-シェル型Al3(Mg, Sc)2/Al3Scナノ相の両方の高密度分散を達成した。2段階加熱処理によって、10 nmを超えるサイズのAl3Scナノ析出物表面でサムソン相Al3(Mg, Sc)2の不均一核形成が誘起された。このサイズ依存性はAl3Scナノ析出物の不整合性と関係しており、これがマグネシウム(Mg)の局所的偏析につながり、Al3(Mg, Sc)2の形成を引き起こす。今回のAl–Mg–Sc合金における二重構造の析出物の分布を調整することによって、強度が約40%増大し、Sc無添加合金と比較してHE耐性がほぼ5倍向上し、Hを7 ppmwまでチャージしたAl合金において記録的な引張均一伸びに達した。我々は、この方策を他のAl–Mg基合金(Al–Mg–Ti–Zr合金、Al–Mg–Cu–Sc合金、Al–Mg–Zn–Sc合金など)に適用した。今回の研究結果は、高強度Al合金の耐水素性を向上させる可能性のある手段を示しており、大規模な工業的製造工程に問題なく応用できる。

