医学研究:認知症に対する帯状疱疹ワクチン接種の影響に関する自然実験
Nature 641, 8062 doi: 10.1038/s41586-025-08800-x
神経向性ヘルペスウイルスは、認知症の発症に関与している可能性がある。また、ワクチンはオフターゲットの重要な免疫学的影響を及ぼす可能性がある。今回我々は、帯状疱疹の弱毒化生ワクチン接種が、認知症の診断発生率に及ぼす影響を評価することを目的とした。我々は、相関関係の証拠ではなく因果関係の証拠を示すため、ウェールズでは帯状疱疹ワクチンの接種資格が個人の正確な生年月日に基づいて決定されていたという事実を利用した。1933年9月2日より前に生まれた人は接種資格がなく、その後も生涯にわたり接種資格がなかったが、1933年9月2日以降に生まれた人は、少なくとも1年間ワクチン接種を受ける資格があった。我々はまず、大規模な電子健康記録データを用いて、成人のワクチン接種率が、接種資格の対象となる日より1週間だけ早く生まれた人では0.01%であったのに対して、わずか1週間後に生まれた人では47.2%に増加していたことを示す。帯状疱疹ワクチン接種率に大きな差があること以外には、1933年9月2日のちょうど1週間前に生まれた人と1週間後に生まれた人で、体系的な違いがある可能性は低い。我々は、回帰不連続デザインにおいてこれらの比較群を用い、帯状疱疹ワクチンの接種により、7年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が、3.5パーセントポイント(95%信頼区間〔CI〕 = 0.6〜7.1、P = 0.019)低下したことを示す。これは20.0%(95% CI = 6.5〜33.4)の相対的減少に相当する。この保護効果は男性よりも女性で強かった。我々は次に、別の集団(イングランドとウェールズを合わせた集団)を対象に、別の種類のデータ(死亡証明書)や、認知症と強く関連するがヘルスケアシステムによる認知症の適時診断にあまり依存しない転帰(認知症を主因とする死亡)を用いて、この結果を確認した。本研究は、独特な状況を利用した自然実験により、既存の関連証拠よりも交絡やバイアスの影響を受けにくい形で、帯状疱疹の予防接種が認知症の予防や発症を遅らせる効果を持つ証拠を示している。

