Article
神経科学:ショウジョウバエ属のハエにおける温度嗜好性の進化
Nature 641, 8062 doi: 10.1038/s41586-025-08682-z
特定の温度範囲への嗜好性は、動物種の分布を決定する重要な要因である。しかし、新しい環境に定着する際に温度嗜好行動が進化する仕組みについてはほとんど分かっていない。今回我々は、少なくとも2つの異なる神経生物学的機構が、ショウジョウバエ属(Drosophila)のハエにおける温度嗜好性の進化の駆動力となっていることを示す。温暖な気候に生息するハエ種(キイロショウジョウバエ〔D. melanogaster〕およびD. persimilis)は無害な熱と有害な熱の両方を回避し、我々は、熱受容体分子Gr28b.dの活性化の温度閾値が、種特異的な熱回避行動の閾値と正確に一致することを示す。これとは異なり、砂漠に生息するD. mojavensisは、無害な熱に能動的に引き寄せられることが分かった。注目すべきことに、熱誘引もGr28b.d(およびGr28b.dを発現する触角ニューロン)によって仲介され、Gr28b.dの熱による活性化の閾値と一致する。むしろ、熱嫌悪から熱誘引への誘意性の切り替えは、側角への温度感覚入力の特定の変化と相関していた。側角は、中枢温度感覚経路の主な標的で、生得的な誘意性の処理に関与するハエ脳領域である。まとめると我々の結果は、ショウジョウバエにおいて、異なる温度ニッチへの適応には温度嗜好行動の変化が関与しており、そしてこれを達成するには末梢温度感覚受容体タンパク質の活性化閾値の移行や、脳で温度の誘意性が処理される方法の大きな変化などの、異なる神経生物学的解決策が用いられていることを実証している。

