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構造生物学:ヒト脂肪酸合成酵素でのアシルキャリヤータンパク質シャトル輸送のスナップショット
Nature 641, 8062 doi: 10.1038/s41586-025-08587-x
哺乳類の脂肪酸合成酵素(FASN)はメガシンターゼファミリーに属する動的な多酵素(multienzyme)である。哺乳類では、1つの遺伝子が触媒活性を持つ6つのドメインと、それに柔軟につなぎ留められた1つのアシルキャリヤータンパク質(ACP:脂肪酸生合成のための活性部位間で中間体のシャトル輸送を行う)ドメインをコードしている。FASNは、膜形成やエネルギー貯蔵、細胞シグナル伝達、タンパク質修飾に脂肪酸が担う役割を介して、哺乳類発生における必須の酵素となっている。従って、FASNはがん、代謝機能異常関連脂肪性肝疾患、ウイルスおよび寄生虫への感染症などの多様な疾患における治療標的として有望である。だが、FASNの多面的な作用機構とそのタンパク質(特にACP)の動的な性質は、分子レベルでの理解を困難なものにしている。今回我々は、NADPHが存在する条件下、それにNADP+とアセトアセチルCoAが存在する条件下で、多様なコンホメーション状態(ACPがデヒドラターゼ〔DH〕とエノイルレダクターゼ〔ER〕ドメインに停留した際の構造を含む)にあるヒトFASNのクライオ電子顕微鏡構造を報告する。我々は、ACP–DH界面とACP–ER界面での変異により、in vitroでのFASN活性と細胞中のde novoでの脂質生合成が阻害されることを明らかにした。まとめると、これらの研究は、FASNおよびACPのシャトル輸送機構の動的な性質に関する分子レベルの新規な考察を提供するのに加えて、FASNを標的とする改良された治療法開発への影響についても論じている。

