生体触媒:改変酵素によるエナンチオ選択的芳香族求核置換
Nature 639, 8054 doi: 10.1038/s41586-025-08611-0
芳香族求核置換(SNAr)は、製薬業界や農薬業界において最も広く用いられているプロセスの1つであり、C–C結合やC–X結合(X = O, N, S)の形成を経る複雑分子の収束的合成を可能にしている。SNAr反応は通常、極性非プロトン性溶媒、化学量論的塩基、高温を必要とする強制的な条件を用いて実施されるが、そうした条件では反応の選択性を制御できない。SNAr化学の重要性にもかかわらず、選択的な触媒的方法は、有機小分子の水素結合触媒や相間移動触媒に依存するわずかな例しか報告されていない。今回我々は、活性化アルギニンを特徴とする設計された酵素における寛容なSNAr活性を明らかにすることによって、立体選択的なSNAr化学を実現する生体触媒的手法を確立した。この活性は、指向性進化を複数回繰り返すことで最適化され、元の酵素よりも効率が160倍高く、電子不足アレーンと炭素求核剤とのカップリングを完璧に近い立体制御(99%を超える鏡像体過剰率)で促進させる人工生体触媒SNAr1.3を得た。SNAr1.3は、速度0.15 s−1、回転数4000以上で機能することができ、困難な1,1-ジアリール第四級立体中心の構築を可能にするカップリングパートナーを含め、広範な求電子性や求核性のカップリングパートナーを受容することができる。生化学的研究、構造的研究、計算研究によって、主要触媒残基であるArg124とAsp125によって形作られるハロゲン化物結合ポケットの出現など、SNAr1.3の触媒機構に関する知見が得られた。今回の研究は、画期的な合成反応を生体触媒の領域に持ち込んで、触媒的SNAr化学のための効率的かつ汎用的なプラットフォームを提供するものである。

