神経回路:単発の嗅内皮質地図が新規環境での柔軟なナビゲーションを可能にする
Nature 635, 8040 doi: 10.1038/s41586-024-08034-3
動物は、餌や隠れ家、配偶相手を見つけるために、変化する環境内をナビゲーションしなくてはならない。哺乳類では、内側嗅内皮質のグリッド細胞が、外部環境の神経空間地図を構築している。しかし、グリッド細胞の発火パターンが、新規または変化する環境の特徴に対して、行動に関連する時間スケールで素早く適応する仕組みは分かっていない。今回我々は、バーチャル環境内でナビゲーションを行っているマウスの1万5000個以上のグリッド細胞から活動記録を行い、グリッド細胞ネットワークのリアルタイム状態を追跡した。これによって、変化する環境特徴がグリッド細胞の発火パターンを、瞬時に近い時間スケールでどう変化させるかを観察・予測することが可能となった。その結果、視覚的目印が、グリッド細胞ネットワークの固定点への入力になるという証拠が得られた。これにより、1回の曝露で、変化した新しい環境における安定なグリッド細胞の発火パターンが作られる。固定された視覚的目印入力はグリッド細胞ネットワークにも影響を及ぼし、変化する目印によりグリッド細胞の発火パターンのゆがみが誘発されるといったことが起こる。このようなゆがみは、グリッド細胞ネットワーク構造中に固定された目印がある計算モデルで予測可能だった。さらに、内側嗅内皮質に依存した課題で、グリッド細胞の発火パターンが目印の変化でゆがんでも、行動的時間スケールのシナプス可塑性を実現する下流領域を介して、行動は適応可能なことが分かった。まとめると、今回の知見で、脳のナビゲーションシステムが、どのようにして速さと正確さのバランスの取れた空間地図を構築するかが明らかになった。目印とグリッド細胞の固定された結び付きにより、脳は、新規または変化する環境内でのナビゲーションに不可欠な安定した空間マップを素早く生成できるようになる。逆にいえば、グリッド細胞より下流の領域での可塑性によって、脳の空間地図はより正確に外部空間環境を反映できるようになる。より一般的には、今回の知見はより広範な原理の可能性を浮上させる。すなわち、固定された結合と可塑的な結合を異なるネットワークに割り当てることで、脳は迅速さと表現上の正確さの両者を必要とする問題を解決できるようになる。

