神経科学:ヒト脳における単一ニューロンレベルのにおい表現
Nature 634, 8034 doi: 10.1038/s41586-024-08016-5
嗅覚は、動物やヒトの行動を誘導する基本的な感覚モダリティーの1つである。しかし、ヒトの嗅覚の基盤となる神経過程は、基本的なレベル、すなわち単一ニューロンレベルでは、まだよく分かっていない。今回我々は、覚醒下の被験者において、においの評価および同定に関する課題を実行中に梨状皮質と内側側頭葉から単一ニューロン活動を記録した。その結果、梨状皮質、扁桃体、嗅内皮質、海馬内に、においによって修飾を受けるニューロンが特定された。それぞれの領域では、ニューロンの発火はにおいの性質を正確に符号化していた。注目すべきことに、におい提示を繰り返すと応答発火頻度が下がり、これは中枢での反復抑制と慣れを実証している。異なる内側側頭葉領域は、におい処理において異なる役割を担っており、扁桃体ニューロンは主観的なにおいの誘意性を符号化し、海馬ニューロンは行動的なにおい同定の成績を予測していた。また、梨状皮質のニューロンが化学的なにおいの性質を優先的に符号化するのに対し、海馬の活動は主観的なにおいの認識を反映していた。重要なのは、梨状皮質ニューロンがにおいに関連する画像を再現性よく符号化していることが明らかになった点で、これはヒト梨状皮質が多モード的な役割を持つという説を支持している。さらに、においと画像の両者の交差モード的な符号化が、特に扁桃体と梨状皮質で観測された。加えて、においと画像の意味的に結束した情報に応答するニューロンが特定され、嗅覚における概念的な符号化スキームが実証された。今回の結果は、動物モデルと非侵襲的なヒト研究の間に長く存在した空白を埋めるとともに、ニューロンレベルでのにおいの符号化原理、脳領域間の機能差、モード交差的な統合を明らかにすることで、ヒト脳でのにおい情報処理についての理解を深めるものである。

